症例7:40歳代 男性

直ちに開腹術が施行されたが,約1mにわたり小腸の変色を認めた.

切除小腸 110 cm, 切除断端部を除いてほぼ全長にわたって粘膜壊死,全層にわたる壊死が非連続的にみられる.

確定診断:NOMI(Non-occlusive mesenteric ischemia)
     非閉塞性腸管虚血症

血栓または閉塞による器質的閉塞を伴わない腸循環障害により腸管虚血あるいは壊死をきたす疾患
 

NOMI
心不全,ショック,hypovolemiaなどの全身の低灌流状態
 ↓
脳や心臓などの重要臓器への血流を維持するために血流の再分配が生じ,腸管や四肢の血流が犠牲にされてさらに減少する
 ↓
低灌流状態が一定時間続くと腸間膜動脈の末梢血管の交感神経が過剰に反応して攣縮し,腸管虚血を生じる

基礎疾患・誘因
三大要因 うっ血性心不全
     ジギタリス中毒
     血液濃縮
ジギタリス製剤
交感神経作動薬
利尿剤
人工透析中
ショック
敗血症

頻度
・急性腸管虚血のなかでNOMIの頻度
 欧米 20-30 %
 本邦 15 % (Mishima,et al)
    27% (田畑ら)
   cf;上腸間膜動脈閉塞 63 %
      上腸間膜静脈血栓症 10%

NOMIの特徴
閉塞性腸管壊死に比べて
・発症時期が曖昧
・症状が緩慢に継続することが多い
・腹痛を訴えない症例;23 % (Howard,et al)
・気管内挿管,鎮痛剤,鎮静剤
・診断が遅れる
・すでに非可逆性になっていることが多く予後不良(死亡率56〜79 %)
 

診断基準
・腸管壊死の領域に相当する腸間膜動脈あるいは静脈に閉塞がみられない
・腸管の虚血及び壊死が分節状で非連続的
・病理組織学的には出血性及び壊死性変化で,小静脈にフィブリン血栓を欠く
 
CT所見
造影CTでSMAが起始部から7〜8cm末梢まで造影され,造影不良な腸管が広範囲に存在する所見(田畑ら)
 SMA血栓症 起始部から3cm以内
 塞栓症 起始部から3〜8cm
 
血管造影
血管攣縮の特徴 (Siegelman,et al)
1. 分岐根部の狭小化
2. String-of-sausages sign(攣縮と拡張が交互に発生する)
3. 辺縁動脈などの末梢部の造影不良
4. 腸管壁血管の造影不良
 
血管造影が早期診断に有用
しかし,実際術前にAGが施行されたのは8〜21 %
リスクファクターを有する高齢者が腹部症状を呈し,非侵襲的な画像診断で原因を特定できない場合には全身状態が良好なうちにAGを施行すべき
 
治療
1. 血管攣縮を惹起するhypovolemiaなどの是正
2. Digitalis製剤や血管収縮剤はなるべく中止する
3. 血管造影で本症と診断されたら塩酸papaverineの持続動注(30-60 mg/hr,少なくとも24時間以上)を開始
4. 腹膜刺激症状が持続,出現した場合には開腹し,術中術後も動注を持続する
 
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moderator : 佐々木真弓,西巻 博,磯部義憲


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