例1 60歳代 女性

<さらにその後の経過>

ある疾患を疑い、Swan-Ganzカテーテルからの細胞診を予定していたのですが、13日酸素6Lから15Lまで増量するもSpO2 80%前後にて、気管内挿管施行。その後徐々に血圧低下し、カテコラミン投与するも反応に乏しく,14日早朝死亡。


剖検所見
両肺には下葉背側部を主体として高度なうっ血肺が認められ、所々に出血巣が認められる。
組織学的には筋性動脈を主体として腫瘍塞栓が認められ、繊維性内膜肥厚が認められ、一部では内腔がほとんど閉塞している部位が認められる。

診断
pulmonary tumor thrombotic microangiopathy(PTTM)and /or
顕微鏡的微小肺動脈腫瘍塞栓

PTTMとは?

  • 1990年にHerbayらが確立した疾患概念。肺動脈腫瘍塞栓症の特殊な型。
  • 単純に腫瘍細胞塊が肺動脈に塞栓する肺動脈腫瘍 塞栓症とは異なる。
  • 組織学的な特徴として、(1)小動脈線維細胞性内膜肥厚、(2)血栓の器質化、再疎通、の2つが認められる。
  • 臨床的には急速に進行する肺高血圧症や肺性心を呈し、大部分が肺血栓塞栓症と診断されて抗凝固療法を施行するも治療抵抗性で数日で呼吸不全から死に至る。
  • 生前診断がつかずに剖検で明らかになることがほとんどで,生前に病理学的に確定診断が付いた報告例は、1例のみ。
  • 剖検症例による検討では悪性腫瘍剖検例の0.9-3.3%に認められる。
  • 癌の原発巣は約6割が胃癌(日本の報告では9割以上)、他にも乳癌、大腸癌、膵臓癌など。組織型はほぼ全てが腺癌で印環細胞癌などの粘液産生腫瘍の割合が高い。
  • 男:女=9:4、年齢17歳から72歳(平均44歳)

<機序>

腫瘍が細動脈上皮に付着
  ↓
局所及び全体の凝固系を亢進
炎症メディエータやFGF、VEGFといった成長因子、TF(組織因子)などの放出
  ↓
血栓形成及び線維細胞性内膜増殖による閉塞
  ↓
肺高血圧、肺性心

画像所見

<胸部CT>
・小葉中心性粒状影、すりガラス状濃度上昇tree-in-bud pattern (←腫瘍塞栓もしくは細動脈内の線維細胞性内膜肥厚による)
・末梢の楔状陰影(←梗塞巣)
・多発する末梢肺動脈の拡張
・右室拡大及び中枢の肺動脈拡張
<肺血流シンチ>
 びまん性の微細な欠損像
<診断>
・開胸肺生検や経気管支肺生検
・Swan-Ganzカテーテルによりwedgeさせ末梢の血液の細胞診
・悪性腫瘍検索(上部内視鏡、腫瘍マーカー、PET)
・心電図、心エコーで右心負荷
<治療>
 生前に確定診断され改善したのは、ステロイド、抗凝固剤、抗癌剤の投与により改善した1例のみ。

ケースレポート(1)(43歳、男性、胃癌)


多発する小葉中心性陰影及びtree-in-bud pattern
AJR 2002;179:897-899

ケースレポート(2)(64歳、女性、胃癌)


肺下葉に多数の小粒状影あり。
病理学的には線維細胞性内膜増殖およびフィブリン血栓
JCO 2006;25:597-599

 

まとめ

  • 肺高血圧、肺性心を引き起こし、急性の経過で呼吸不全により死亡した
    pulmonary tumor thrombotic microangiopathy (PTTM)の1例を経験した。
  • PTTMはまれな病態であり生前の診断は困難であるが、担癌患者の低酸素血症や肺高血圧症において肺血栓塞栓症との鑑別として念頭に置く 必要がある。
 
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Moderator : 赤井 宏行