第304回 東京レントゲンカンファレンス
2008年04月24日開催

症例1 20歳代 男性(南アジア人)
 

ポイント

・病歴・血液検査
 南アジア人(来日後2週間)
 10日前に発症した発熱
 昨日より左季肋部痛
 軽度の貧血、血小板減少
 間接ビリルビン・CRP上昇
 明らかな腹部打撲歴なし

・画像所見:腹部単純X線写真&腹部CT
 脾腫
 少量の血性腹水
 脾被膜下損傷
 脾被膜下血腫
 被膜断裂(-)
 造影剤の血管外漏出像(-)

脾腫の原因

  • 感染症 (細菌性、ウィルス性、寄生虫性、真菌性;特に伝染性単核球症、マラリア)
  • 血液疾患(白血病、リンパ腫、溶血性貧血、髄外造血)
  • 門脈圧亢進症
  • うっ血性心不全
  • サルコイドーシス
  • 代謝性蓄積病(ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、ムコ多糖症)
  • リンパ球増殖性疾患
  • 膠原病性血管性疾患(SLE、結節性多発性血管炎)

非外傷性腹腔内出血の原因としての脾自然破裂

  • 急速に進行する脾腫の結果,自然に脾破裂をきたす病態
  • 原因は、白血病、悪性リンパ腫、伝染性単核球症、マラリア、門脈圧亢進を伴う肝疾患など
  • 膵炎、転移性腫瘍、脾ペリオーシスでの報告もある
  • TAEや摘脾が必要な場合がある
 

診断:マラリア(三日熱マラリア)脾腫に伴う被膜下損傷/被膜下血腫

 

本例における他の血液検査
・血液塗沫迅速キット:マラリア陽性
・血液塗沫鏡検(ギムザ染色):赤血球内に三日熱マラリア原虫証明(感染率0.8%)

その後の経過
 マラリア原虫に対する治療
・マラリア原虫確認直後にクロロキン内服開始
  5日で赤血球感染率0%
・その後、プリマキン内服(X14日間)
  肝細胞内休眠原虫に対する治療
・腹部CT後に止血剤開始
  脾被膜下血腫は次第に縮小
→ 保存的治療のみで軽快退院

マラリアについて
■疫学
・世界で年間3-5億人の罹患と200万人の死亡者
・南アフリカに最も多く、その他、東南アジア、南アジア、南太平洋諸島、中南米にみられる
・旅行者の疾患としての重要性 世界で年間約3万人、日本では年間100例前後の報告例
■病原体
・Plasmodium 属原虫感染症
 ヒトに疾患を起こすのは、
  熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum )
  三日熱マラリア原虫(P. vivax )
  四日熱マラリア原虫(P. malariae )
  卵形マラリア原虫(P. ovale )
・ハマダラ蚊(雌)が媒介
・潜伏期間:1-4週間、時に数ヶ月から1年以上
■臨床症状
・発熱 96%
・悪寒 96%
・頭痛 79%
・筋肉痛 60%
・肝腫大 33%
・脾腫 28%
・悪心嘔吐 23%
・腹痛・下痢 6%
■検査所見
・血小板減少
・LDH上昇
・総コレステロール低下
・血清アルブミン低下
・貧血は初期にはみられないことが多い
「しばしば、非特異的」

脾自然破裂とマラリア

  • マラリアでの脾自然破裂の頻度は報告では2%以下
  • 主に感染の急性期、三日熱マラリア感染で生じる
  • 脾実質内の小出血、梗塞、うっ血、巣状壊死の状態に加え、嘔吐、屈曲、咳、排便などによる局所の軽度の圧力が脾被膜の緊張をもたらし、脾血腫や脾破裂が生じると考えられている

マラリアの画像診断

  • 画像診断に関するまとまった報告は少ない
  • 脾腫:急性期患者の大部分

*マラリアの合併症
<Splenic>
  脾血腫、脾破裂、脾梗塞、脾膿瘍、脾捻転、
  脾機能亢進
<Non-splenic>
  脳マラリア(びまん性脳浮腫)、急性腎不全、
  重症貧血、肺水腫

参考文献

  1. Ozsoy MF, et al. Journal of Medical Microbiology 2004, 53;1255–1258
  2. Yagmur Y, et al. Crit Care 2000, 4:309–313
  3. Ribordy V, et al. Intensive Care Med 2002; 28:996.
  4. Gockel HR, et al. Infection 2006;34:43-45
  5. Tufail PF, et al. Radiology 2002;224:811-816
  6. Ito K, et al. AJR 1997;168:697-702
  7. Peterson A., et al. Radiographics. 1999;19:1465-1485

 

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Moderator:相部 仁