第309回 東京レントゲンカンファレンス
2008年11月27日開催
症例4 70歳代 男性
 
  動脈瘤様骨嚢腫
aneurysmal bone cyst

【既往歴】アレルギー: food(-) drug(-)、
     感染症:HBsAg(-) HCVAb(-) 梅毒(-) 輸血歴(-)
【家族歴】特記すべき事なし
【生活歴】喫煙歴:(-)(20歳代、20本/日)
     飲酒歴:1合(以前は3~4合/日)
【現病歴】
健康診断で随時血糖127mg/dl、HbA1c6.8%を指摘された。
当科を受診し糖尿病を指摘されて、初回教育入院の目的で第3内科に入院となった。
同時に右頚部腫瘤を自覚しており、こちらは耳鼻科で外科的手術を施行する運びとなった。               
【入院時身体所見】
BMI25.1 BW 69.0kg  BT 36.2℃ PR 90/min BP 158 / 80mmHg、
皮膚湿潤・冷汗(-)・チアノーゼ(-)・黄疸(-)・皮疹(-)、眼瞼結膜貧血(-) 、
眼球結膜黄染(-)・充血(-)・脂肪沈着(-)、聴力正常、咽頭発赤(-)、扁桃腫脹(-)、耳下腺触知(-)、
頚部リンパ節(-)、右頚部に約4cmの腫瘍を触知する、頚動脈雑音(-)、甲状腺軟・、
胸部ラ音(-)・喘鳴(-)・心雑音(-)・Ⅲ音(-)・Ⅳ音(-)、腹部軟・平坦・手術痕(-)・腸蠕動音正常・圧痛(-)、
四肢冷感(-)下腿浮腫(-)、足白癬(-)

【検査所見】
(血算)WBC 5550/μl, RBC 430万/μl, Hb 13.4g/dl, Plt 24万/μl,
(生化学) TP 7.8g/dl, Alb 4.2g/dl, T-bil 0.8mg/dl, D-bil 0.3mg/dl, ALP 391IU/l, LDH 153U/l,AST 24IU/l, ALT 27IU/l, BUN 17.7mg/dl, Cre0.79mg/dl, UA 5.0mg/dl, Na 138mEq/l, K 4.3mEq/l, Cl 103mEq/l,
LDL-C 114mg/dl, HDL-C 49mg/dl, TG 86mg/dl
(腫瘍マーカー) CEA 0.9g/ml、CA19-9 6.08U/ml
(糖尿病関連) HbA1c 6.7%, Glu 106mg/dl, GAD抗体U/ml, CPR 2.8ng/ml,
HOMA-R 2.5(Glu 103mg/dl,IRI 9.7μU/ml)
(尿検査) TP(U) <5g/dl, Alb(U) 18.4mg/day, Ccr 129.5ml/min, CPR(U) 211.98μg/day, NAG 4.7U/l, β2mG 108ng/ml
ECG:正常、胸部Xp:CTR 44.7%・肺野はclear・CPAはsharp、
ABI:rt1.21、lt 1.24(baPWV:rt 2786、lt 2408)


画像提示および所見  
MRI(T2WI)  
頚椎から骨外性に膨隆する腫瘤
(辺縁石灰化、液面形成・出血あり)
MRI(T1WI)  
頚椎から骨外性に膨隆する腫瘤
(辺縁石灰化、液面形成・出血あり)
MRI・造影T1WI(F/S)  
増強される骨外性腫瘤
(椎体破壊、嚢胞形成・出血あり)
MRI(造影sag.),MR(MIP)  
周囲構造の圧排・増強効果あり
(MRAでは血管奇形・瘤形成なし)
他院で撮像されたCT Axial(単純、造影)  
椎体より膨張性に発育。
(骨組織で薄く覆われる。
濃染像、嚢胞形成・出血あり。)
造影Cor.&X線単純写真  

第4頸椎椎体右側に骨融解像と骨皮質の欠損がみられる。
同部由来の腫瘤(辺縁石灰化)が示唆される。


 

【鑑別診断(列挙)】
・悪性神経原性腫瘍 ・悪性線維性組織球腫 ・滑膜肉腫 ・血管拡張型骨肉腫
・軟骨芽細胞腫 ・軟骨肉腫 ・骨巨細胞腫 ・動脈瘤様骨嚢腫 ・転移性骨腫瘍

【鑑別診断(絞り込み)】
・脊椎椎体から発生した腫瘍と推察される。
・多くの疾患が若年者に好発する中、軟骨肉腫(中高年)と骨巨細胞腫(20~40歳代)が年齢からは合うかも知れない。しかし、例外は付き物である。
・頻度からは動脈瘤様骨嚢腫(ABC)の約20%、骨巨細胞腫(GCT)の約7%が脊椎腫瘍として発生する。特に前者は脊椎発生の原発性骨腫瘍の約16%を占めると言われている。
・ABCは、約60%が後方要素から発生し、同時に椎体も侵される頻度も70%以上と高い。GCTは、前方要素(椎体)から発生する傾向がある。また、いずれも女性に多い。

【鑑別診断(まとめ)】
1.軟骨肉腫・・・膨張性の溶骨像、骨皮質内側からの侵食像(endosteal scalloping)。輪状、弧状の石灰化。
2.骨巨細胞腫・・・地図様の溶骨像および分葉状の輪郭(soap bubble appearance)。嚢胞形成・内部出血(fluid-fluid level)。
3.動脈瘤様骨嚢腫・・・膨張性発育の骨融解性病変、分葉状の多房性病変+内出血(blood-filled sponge)。

※頻度、形態・性状から2.GCT、3.ABCのいずれか?

【病理(所見)】
・多核巨細胞が散見される。小嚢胞腔内には出血(+)。
・また、毛細血管や線維芽細胞も増生している。
 ※紡錘形細胞、軟骨 or 類骨組織(-)。

強拡 弱拡

         
【病理(まとめ)】
・肉腫様成分、軟骨 or 類骨組織(-)。
・malignant neoplasmの像は見られない。
・複数の病理医によるconsultationの結果、『GCTの成分が微量で、ABC, more-likely。』とのコメントを頂戴した。
・また、「GCTから2次的に発生したABC」も、可能性として残りうる事が推察された。

最終結論(確定診断)
『頚椎由来の動脈瘤様骨嚢腫(骨巨細胞腫からの2次的発生も、可能性として含まれる。)』
『Aneurysmal bone cyst of the cervical spine (possible, secondary ABC arising from GCT)』

 
 

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Moderator:澤田 栄一