入院時すでに癌性腹膜炎の状態で、肺塞栓も併発、全身状態の著明な低下あり。
入院約一ヵ月後に急激な腹痛が出現したため、造影CTを施行。
血液・生化学検査 (腹痛発症時)
・WBC 8900/μ00/l (3800-8500) Seg90%
・RBC 354×104/μl (360-500)
・AST 223 IU/l (7-38)
・ALT 89 IU/l (4-43)
・T-Bil 2.9 mg/dl (0.2-1.2)
・ALP 1646 IU/l (103-335)
・CRP 6.81 mg/dl (<0.3)
炎症反応と肝機能の低下あり。
画像所見
胸部単純写真(発症約一週間前)
右肋横隔膜角鈍化あり、胸水貯留が疑われる
造影CT(発症当日)
胸水、腹水貯留
両側肝内胆管が軽度拡張
胆嚢は腫大し壁の増強効果が不良(赤矢印)
頸部が対照的にやや強く造影される(黄矢印)
胆嚢底部は下方に偏位・下垂
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頸部のみ間膜により肝床と付着
開腹時は捻転は解除されていた |
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壁は菲薄化し赤黒い出血が斑状に多発 |
手術所見
1.多量の黄色透明漿液性の腹水貯留
2.胆嚢は腫大し緊満著明
壁に暗赤色や灰白調の部位が地図状に見られ,急性炎症の所見
壁は菲薄化し肝床との剥離が容易
3.腹膜全体,小腸,大網に多数の播腫結節
大網は播腫のため著明に短縮
骨盤は播腫巣のためほとんど観察できず
病理所見
胆嚢:
粘膜上皮のびらん性脱落 壁の軽度肥厚
炎症性細胞浸潤と出血 散在性の壊死あり
悪性を思わせる異型なし
腸間膜結節,大網播腫,付属器:
いずれの検体にも腺癌の転移あり
病理診断
急性出血性胆嚢炎
acute hemorrhagic cholecystitis
(胆嚢捻転後の虚血性変化として矛盾せず)
癌性腹膜炎 peritonitis carcinomatosa
(原発不明腺癌)
胆嚢捻転症(torsion of the gallbladder)
胆嚢頸部の捻転により胆嚢壁の虚血や胆管狭窄をきたす疾患
高齢者,女性に多い
原則的に緊急手術を要し速やかな診断が必要
先天的要因;遊走(浮遊)胆嚢 floating gallbladder
後天的要因;亀背,栄養不良,内臓下垂,外傷, 消化管蠕動,腹腔内圧急変など
遊走胆嚢の分類(Gross)
I型:胆嚢管,胆嚢が間膜様の腹膜により肝下面に付着 (28.4%)
II型:胆嚢管のみが付着 (71.4%)
US・CT所見(本症例)
1.胆嚢腫大 壁肥厚は軽度 胆石・debrisなし
2.胆嚢と肝床との接触面積の狭小
3.胆嚢の正中側または下方偏位
4.壁の血流低下 頸部の増強効果 捻転部の円錐状くびれ
参考文献
1) 佐久間他:Case of the month.画像診断 27 : 754-756, 2007.
2) Gross RE: Congenital anomalies of the gall bladder. Arch Surg 32: 131-162,1932.
3) 須崎他:胆嚢捻転症の1例ー本邦236例の検討.胆と膵15: 389-393, 1994.
4) 宜保他:胆嚢捻転症の画像診断 特にCT所見の経過について.臨床放射線 45: 437-440, 2000.
5) 小坂他:胆嚢捻転.消化器画像 6: 221-227, 2004