OHVIRA症候群 (重複子宮、重複腟の一側腟閉鎖) |
慣用的に Wunderlich症候群
症例検討 |
主要症状
・重複子宮
・重複腟
・一側腟閉鎖
・同側の腎無形成
(・卵管留血腫)
*病理にて液体貯留腔の壁は腟中隔であることを確認
鑑別疾患
●OHVIRA症候群
重複子宮、重複腟の一側腟閉鎖
● Herlyn-Werner症候群
1971年、Herlyn and Wernerが双角子宮(文献によっては重複子宮)と
子宮内腔に交通のあるGartner管嚢胞(Wolff管下部の遺残)および同側腎無形成をもつ症例として報告。
● Wunderlich症候群
1976年、Wunderlichが傍頸部嚢腫と同側腎無形成を示す重複子宮奇形であり、
この傍頸部嚢腫は対角頸部とも腟腔とも交通しない子宮頸部の拡大したものとして報告(一側盲角子宮)。
(文献によっては、子宮は重複子宮、完全中隔子宮、場合によっては副角を伴う単角子宮)
発生学的疾患概念
・Müller管が卵管、子宮、腟上部1/3を形成
・子宮、腟上部1/3は左右Müller管の癒合したもの→重複子宮、重複腟
・腟は上部1/3がMüller管、下部2/3が尿生殖洞由来→OHVIRA症候群の重複腟は腟上部のみ
・Müller管の発達はWolff管の誘導下に起こる
・尿管はWolff管の下部より後方に向かって発生し、その先端に最終的な腎臓が発生
→患側の腎尿管無形成を合併(子宮奇形の43%)
OHVIRA症候群
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片側Wolff管の発育障害と
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村上隆介ら:初経前に発症し腹腔鏡が診断と治療に有用であった重複子宮、重複腟、左腟閉鎖、左腎尿管無形成の一例. 日本産婦人科内視鏡学会誌, 23: 143-147. 2007
櫻井信行ら:腟中隔の開窓術を施行後、患側子宮に妊娠し分娩に至ったWunderlich症候群の1例. 産婦人科の実際, 57: 2211-2214. 2008
鑑別ポイント | ||
OHVIRA症候群 | = | 重複腟 |
Herlyn-Werner症候群 | = | Gartner嚢胞 |
Wunderlich症候群 | = | 一側盲角子宮 |
病理診断
・OHVIRA:閉鎖・非閉鎖側腟壁の両方に重層扁平上皮
・Wunderlich:閉鎖側に子宮頚管腺由来の高円柱上皮
・Herlyn-Werner:閉鎖側にGartner管嚢胞由来の立方上皮or低円柱上皮、特有の線毛細胞
*外界と交通がある場合は元来Muller管由来である円柱上皮が重層扁平上皮化生を起こすため、
円柱上皮と重層扁平上皮の混在が認められる
堀内由佳ら:Wunderlich症候群の1例. 産婦の進歩, 56: 85-90, 2004
完全閉塞型 |
不完全閉塞型 |
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対側腟と交通 |
対側子宮と交通 |
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56.7% |
26.7% |
16.7% |
初経から症状出現。進行性で高度の月経困難症。腫瘤・月経痛・下腹部痛の3症状が多い。 |
月経時の下腹部痛は軽度。感染徴候があり、腟壁より膿流出あり。 |
月経時の下腹部痛は軽度。膿性帯下が多い傾向。 |
症状
・下腹部痛、骨盤痛 ・月経困難 ・間欠的腟出血 ・尿閉 |
・過多月経 ・過長月経 ・不正性器出血 ・悪臭を伴う膿性帯下 ・不妊 |
治療
・腟壁開窓術(閉塞した腟壁を外科的に開口)
・診断的腹腔鏡
・患側子宮、閉鎖腟管切除
*子宮奇形には必ずしも形成術が必要ではなく、自然に妊娠することが期待される。
しかし、流早産、IUGR、骨盤位が正常子宮に比べてやや多いとされる。
治療後の予後
・2005年までの本邦報告例では切開部位の癒着、感染、炎症などによる症状の再燃は2/51例。
・Rockらの報告では、12例中7例が妊娠を希望、6例が満期産。(患側子宮での妊娠報告も見られる。)
結語
・術前に診断できれば、低侵襲の治療を選択できる。
・早期に適切に治療できれば妊孕性を保てるが、診断が遅れると、片側の卵管留血腫・子宮留血腫・腟留血腫を呈して不妊に至る可能性が高く、まれに壊死や腹腔内に破裂を起こし腹膜炎に至ることがある。
・初経前後女児の急性腹症+下腹部腫瘤
・双角子宮の留血腫や留膿腫→Wunderlich症候群系統の3疾患を考慮
Tips
・日本語論文の多くで、OHVIRA症候群がWunderlich症候群として報告されている。
・英語論文では、重複子宮・一側腟閉鎖がHerlyn-Werner-Wunderlich症候群(HWWS)として報告されている。
・Wunderlich症候群は、「被膜下および/または腎周囲への外傷によらない腎出血」の名称としても使われる。
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