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第328回東京レントゲンカンファレンス
2011年5月26日
症例1 30歳代 男性
   

虫垂膀胱瘻(それに伴う左精巣上体炎)
appendico-vesical fistula




画像所見のまとめ

膀胱内にgasを認める 膀胱の引きつれ像が認められ、
 盲腸下端と癒着
左精巣上体の腫大・異常造影増強


鑑別診断
回盲部(特に盲腸)と膀胱の交通 年齢を考えると炎症>腫瘍
・盲腸膀胱瘻
・虫垂膀胱瘻

・回腸膀胱瘻

・左精巣上体炎(上記に伴う尿路感染が機序として疑われる)
 

 

【その他の検査】
<膀胱鏡検査>
 
尿は混濁傾向。右側壁に開口部を認め、便汁様の液体排出が見られた。
<注腸造影>
 瘻孔の描出は認めなかった。
<下部消化管内視鏡検査>
 盲腸に炎症性ポリープ数個を認めたのみ。

【臨床経過】
尿培養から大腸菌検出。
抗生剤治療を開始し、発熱、左陰嚢痛は改善。
膀胱と盲腸との瘻孔が疑われたため、回盲部切除術施行。


手術所見盲腸は膀胱と強固に癒着。
盲腸と膀胱の癒着部を丁寧に剥離していくと、盲腸末端と膀胱とをつなぐ管状構造が確認され、虫垂と同定した。
虫垂炎の膀胱穿通による瘻孔形成と考えられた。
明らかな腫瘍性病変は認められなかった。回盲部切除+膀胱部分切除を施行。

 

【病理診断】 Appendicovesical Fistula due to Appendicitis

 

病理所見

【膀胱虫垂瘻を含む検体】
・4.7x1.5x1.2cm。
・瘻孔形成あり。
・出血と変性を部分的に伴ったやや萎縮性の虫垂組織を認め、虫垂粘膜は瘻孔部に連続する。
・瘻孔部および周囲の粘膜には炎症細胞浸潤を認めるが、
 単核球主体で好中球はほとんど見られない。

 

【回盲部】
・14x9x2cm。
・組織学的には、単核球主体の中等度の炎症細胞浸潤を伴っている。
回盲部には明らかな瘻孔なし。悪性所見なし。

 

【診断】虫垂膀胱瘻(それに伴う左精巣上体炎)appendico-vesical fistula

 

膀胱腸瘻【分類および頻度】
膀胱結腸瘻:63 % 通常はS状結腸で形成される
膀胱直腸瘻:16 %
膀胱回腸瘻:4 %
膀胱虫垂瘻:4 %

【疫学】
60〜70歳代に多く、男女比は3:1/∵女性は膀胱とS状結腸の間に子宮があるため

【原因】
●炎症
・憩室炎:原因の50〜70%/膀胱結腸瘻がほとんど
・Crohn病:10%以下/膀胱回腸瘻の原因としては最も多い
・その他に虫垂炎、メッケル憩室炎、泌尿生殖器感染症…
●腫瘍
・全体の20%/結腸直腸癌が大部分
・膀胱癌によるものは稀
●医原性
・骨盤部手術、内視鏡的処置…
・放射線治療:治療から数年後でも起こりうる
●外傷

【症状】
●泌尿器科的症状の頻度が高い。
・膀胱はコンプライアンスが高く、内腔圧が低いため
・気尿・混濁尿:最も多い症状で50-90 %
・尿路感染:70-80 %
・直腸からの尿排泄:15 %
●気尿があった場合の鑑別として、膀胱腸瘻、最近の膀胱内処置、気腫性膀胱炎などを考慮する必要がある

【その他の検査】
・尿検査・培養:非特異的ではあるが、85 %で異常を認める/E.coliをはじめとする便の細菌叢の混合感染
・膀胱鏡:瘻孔が確認できるのは半数程度/瘻孔の初期の所見である紅斑、浮腫、欝血がみられる/便や粘液を認めることもある
・大腸内視鏡:原因疾患の検索に有用

【治療】
・原則腸切除術。腸と膀胱を隔離することで膀胱の瘻孔は自然に閉鎖することが多い
・憩室炎が原因の場合は腹腔鏡手術も行われる

【予後】
・良性疾患が原因の場合は良好で、腸切で治癒する
・悪性腫瘍が原因で、放射線治療を行った場合は、再発が多い

 

【膀胱腸瘻の画像診断】・腹部単純Xp:立位で膀胱内にair-fluid levelがみられることがある
・注腸造影:瘻孔が描出されることは少ない。感度20-35 %

・膀胱造影:瘻孔が描出されることは少ない。
 "beehive"sign (腸管との付着部の膀胱壁が牽引) が特徴的
 

CT:
 最も正診率が高い。感度60-100%膀胱内のガス、腸管壁の限局性肥厚及びそれと近接する膀胱壁の限局性肥厚などの所見

 管腔外の所見も得られるため、原因疾患の評価も可能
 3D再構築が、瘻孔と周囲構造との関係の評価に有用

・MRI:コントラスト分解能に優れるため、造影剤を用いることなく瘻孔の描出や周囲の炎症の評価が可能


【腹部単純写真】見直してみると・・・


膀胱虫垂瘻・膀胱虫垂瘻は比較的まれで膀胱腸瘻のなかでも4%
・原因の大半は虫垂炎
・青年男子に多く認められる
  ∵虫垂炎が20〜30代に多いため/本邦報告例において男性23人、女性13人/年齢4ヶ月〜79歳(平均:30.9歳)
・主訴は、排尿時痛・尿混濁等の膀胱炎症状が50%以上を占める/気尿や糞尿は頻度として少ない
・予後は膀胱腸瘻の中でもきわめて良好
・症状出現時から診断までの期間が時として数年に及ぶこともあるとされており、確定診断までが難渋することが多い


結語・ 比較的稀とされる膀胱虫垂瘻の1例を経験した。
・ 膀胱内のgasを認めた際には、最近の泌尿器科的処置や気腫性膀胱炎の他に、膀胱と腸管との瘻孔形成の可能性を考慮して、 瘻孔部位を検索する必要がある。

 

参考文献
・ Scozzari G, Arezzo A, Morino M : Enterovesical fistulas: diagnosis and management. Tech Coloproctol 14: 293-300, 2010.
・杉本賢治, 尾上正浩, 若杉英子, 原靖, 江左篤宣, 松浦健, 加納寿之: 膀胱虫垂瘻の1例. 泌尿器外科, 13, 695-698, 2000.
・Kaisary AV, Grant RW :‘Beehive on the bladder’: a sign of colovesical fistula: Annals of the Royal College of Surgeons of England, 63, 195-197, 1981.

 

 

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Moderator:原田 明典