左卵巣甲状腺腫、右卵巣内膜症性嚢胞 struma ovary of the left ovary,endometrial cyst of the right ovary |
▼ 左卵巣:T2WI/T1WI/造影後T1WI |
▼ 右卵巣:T2WI/T1WI/造影後T1WI |
MRI所見まとめ・左卵巣: 各々の房はT1WI、T2WIでそれぞれ異なる信号を呈し、ステンドグラス様である。
嚢胞の中には、内容物がT2WIで明瞭な低信号を呈するものがあり、T1WIでは軽度高信号を呈する。
・右卵巣:嚢胞の中には、内容物がT2WIで低信号を呈するものがあり、ステンドグラス様。T1WIで明瞭な高信号を呈する。
・両側ともに嚢胞壁や隔壁が造影されるが、明らかな充実部分は見られない。
・脂肪抑制を示す部分は認められない。
・子宮筋腫が多発している。
左卵巣についての考察
・多房性嚢胞性腫瘤
・各々の房はT1WI、T2WIでそれぞれ異なる信号を呈し、ステンドグラス様である。
・嚢胞隔壁が淡く造影される。
・充実部分は明らかでない。
・脂肪抑制を認めない。
・背側の嚢胞内容物はT2WIで明瞭な低信号を呈し、T1WIにて軽度高信号を呈する。
▼ T2WI/T1WI |
ステンドグラスパターンを呈しT2WI低信号部分を含む嚢胞性卵巣病変
・内膜症性嚢胞
・転移性卵巣腫瘍
・粘液性嚢胞腺腫/癌
・成熟嚢胞性奇形腫 → 典型的には皮脂腺より分泌された脂肪成分が脂肪抑制される。
・カルチノイド → 成熟嚢胞性奇形腫と合併するのが典型的。
・卵巣甲状腺腫
Br J Radiol. 1999 Apr;72(856):414-20.
Differential diagnosis of gynaecological "stained glass" tumours on MRI.Tanaka YO et al.ほか
卵巣甲状腺腫・成熟嚢胞性奇形腫のうち甲状腺成分を多く含むもの。
・成熟嚢胞性奇形腫のように脂肪成分を含むことがある。
・嚢胞内の液体濃度を反映し、T2WIにて様々な信号強度を呈するステンドグラスパターンを呈する。
・甲状腺コロイドが嚢胞内に貯留することにより、内部の信号が明瞭なT2WI低信号を呈する嚢胞がみられることがある。
・充実成分があれば、明瞭な造影効果を呈する。
左卵巣の診断:卵巣甲状腺腫?
右卵巣についての考察
・多房性嚢胞性腫瘤
・嚢胞内容物の中にはT1WIで明瞭なほぼ均一な高信号を呈し、T2WIで筋よりやや高信号を呈するものがある。
・嚢胞内容物は脂肪抑制されない。
・正常卵巣と思われる構造のほか、明らかな充実成分なし。
▼ T2WI/T1WI |
T1WIにて高信号を呈する嚢胞性卵巣病変
・出血黄体 → 腹腔内出血となることもある。月経の1週間前に出血することが多い。
メトヘモグロビンの増加に伴い血腫は辺縁から高信号となっていく。
・内膜症性嚢胞
・成熟嚢胞性奇形腫 → 典型的には皮脂腺より分泌された脂肪成分が脂肪抑制される。
・漿液性嚢胞腺腫/癌 → 典型的には嚢胞内容物はT2WIで高信号を呈する。
・転移性卵巣腫瘍
右卵巣の診断:内膜症性嚢胞?
画像診断
左卵巣:卵巣甲状腺腫
右卵巣:内膜症性嚢胞
鑑別診断
左卵巣粘液性嚢胞腺腫
両側内膜症性嚢胞
両側転移性卵巣腫瘍 etc.
術前検査成績2 [内分泌]TSH:0.33µIU/ml (正常下限0.5), FT3:3.07pg/ml, FT4:1.34ng/dl
▼単純CT |
病理(左卵巣)・大きさ95x80x54cm。卵巣は約3cm大までの多房性嚢胞状。内腔に黄色ゼリー状の液体が貯留する。
組織学的には単層立方上皮からなる大小多様な嚢胞、濾胞が見られ、内腔に甲状腺様のコロイドが見られる。
・上皮の異形は乏しく核分裂像も見られない。正常甲状腺組織と類似した組織であり、卵巣甲状腺腫の所見。
カルチノイド成分やdermoid cystの成分は認められない。悪性所見なし。
病理(右卵巣 核出)・大きさ25x15x10mmと25x25x20mm大の2個
・内腔は黒褐色調の変性した液体が充満する。
・組織学的には、嚢胞内腔は子宮内膜腺様の単層円柱上皮で裏打ちされ、その周囲に内膜間質細胞が見られる。
上皮が脱落した部位ではヘモジデリンの沈着がみられる。卵巣子宮内膜症(嚢胞)の所見。悪性所見なし。
最終診断
・左卵巣 卵巣甲状腺腫 Struma Ovarii of the left ovary
・右卵巣 内膜症性嚢胞 Endometrial Cyst of the right ovary
卵巣甲状腺腫 ・成熟嚢胞性奇形腫のうち、甲状腺組織を50%以上含むもの、またはfunctionally activeなもの。
・50-60%が成熟嚢胞性奇形腫の成分あり。まれにカルチノイド成分がみられる。
・5%以下が悪性化する。
・95%程度が片側性。うち65%が右側という報告あり。
・嚢胞内部に甲状腺コロイドが貯留しT2WI低信号を呈することがある。
・CTではヨード含有を反映し高吸収を呈する。
・5-15%がhyperthyroidismを呈すると言われる。
参考文献
・Shen J et al.Abdom Imaging. 2010 Nov 23.Diagnosis of Struma ovarii with medical imaging.
・Tanaka YO et al.Br J Radiol. 1999 Apr;72(856):414-20.Differential diagnosis of gynecological "stained glass" tumours on MRI.
・Hricak, Hedvig Diagnostic Imaging : Gynecology
・今岡いずみ・田中優美子 婦人科MRIアトラス
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