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第334回東京レントゲンカンファレンス
2012年2月23日
症例3 40歳代 男性
    筋強直性ジストロフィー
myotonic dystrophy

 

I 画像解説:提示画像のまとめ

【現病歴】15 才ころの発症で、既に診断名はついていた。(問題として伏せさせていただきました。)

理学所見上、前腕、手の筋萎縮を認め、両側の長短母指屈筋、手内筋など遠位筋優位に 3/5 程度の筋力低下を認めた。
その他の所見は後に記載。

   CT  
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・大脳鎌の石灰化
・石灰化した皮下結節
・石灰化を含む皮下結節

 MRI:T2WI      
<> <> <> <>
・両側側頭葉極皮質下に
 高信号域を認める。
・両側の島皮質下にも
 高信号領域を認める。
・右頭頂葉皮質下白質に
 高信号領域を認める。
・外側翼突筋の萎縮、脂肪化

 MRI:FLAIR
<>

 MRI:T1WI    MRI:DWI
<>   <>
・異常ははっきりしない。   ・石灰化を含む皮下結節

・T2WI や FLAIR image での大脳皮質下白質、特に両側側頭葉極の高信号病変。
・咀嚼筋の萎縮。
・大脳鎌石灰化。
・皮下結節。

 側頭葉極の対称性異常信号を示す疾患
CADASIL/CARASIL 外包を含めた白質異常信号
megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cysts T1WI で低信号となる嚢胞形成
筋強直性ジストロフィー ★咀嚼筋の萎縮
Menkes 病 動脈の蛇行、脳萎縮が強い
ALS-D 錘体路症状を伴う認知症
神経梅毒 意識障害、進行麻痺などの臨床症状
Aicardi-Goutieres 症候群 小児の発症
前頭側頭葉変性症の一部 認知症状が主体

本症例は、特徴的な顔貌、遠位筋優位の筋萎縮、 手の把持ミオトニア、舌のミオトニア、 筋電図のミオトニア電位などから、 臨床的に筋強直性ジストロフィーと診断されている。

 

II 疾患解説:いかなる疾患なのか
筋強直性ジストロフィー (DM:myotonic dystrophy)

・有病率は約 20000 人に1人。常染色体優性遺伝。
・古典型では若年に発症する筋力低下を主症状とする。
・成人発症では最多の筋ジストロフィー。
・遺伝子 DM1:19q13.32 あるいは DM2:3q21の異常。
・1 型は Steinert 病ともいわれる。

神経学的所見  
・把持ミオトニアの出現
 =握ったものを放すことができない。
・舌ミオトニア、クローバー舌
 =舌を叩打すると収縮したままになる。
   
神経学的所見  
・四肢遠位筋優位の萎縮が見られる
 (筋原性疾患の中でも例外的である!)
・咀嚼筋や胸鎖乳突筋の萎縮が強い。
 特徴的な筋萎縮パターンから
 「斧様顔貌」といわれる外見を呈する。

筋電図所見
刺入にともなって陰性、陽性棘波が出現。
高頻度放電と振幅、放電頻度の漸減、漸増現象を示す。その音は「急降下爆撃音」として表現される。

その他の特徴
白内障が早発する。
・前頭部の脱毛
心筋障害、房室ブロック、不整脈
・軽度の知能低下
・内分泌異常(糖尿病、 血清 IgG の低下)

画像所見
・大脳白質の T2 強調像、FLAIR 像での高信号。特に側頭葉極や島回に顕著
・先天性の場合、側脳室三角部後上部にも異常信号。大脳鎌の石灰化があり、強いと前頭骨が肥厚する。
・MRS 解析ではNAAピーク低下があるとされる。
・同時に咀嚼筋萎縮が見られることが多い。

III 本症例の検討:非典型的であった理由とは ・本症例では筋力低下は前腕、手レベルで徒手筋力 3/5 程度と比較的軽症であった。
・家族歴としても家系内に症状を呈した者はなかった。
・前頭部脱毛は認めたが、白内障は自覚していなかった。⇒画像的には典型的だが、所見が目立たないのは何故か。

・本疾患では 19 番染色体に位置する Dystrophia myotonica protein kinase(DMPK と略称)の 3’ 末端に CTG リピートが増幅する。
 つまり、トリプレットリピート病である。

・重症度はリピート数により決定される。⇒症状の発現の程度は症例間で非常に幅がある。
 正常人では 5-37
 軽症型では 50-150
  通常型では 100-1000
 重症先天型では 2000 以上 のトリプレットリピートが証明される。

・多くのトリプレットリピート病(脊髄小脳変性症、 Huntington 舞踏病)などと同様、世代を経るに従い蓄積する傾向がある。
 (anticipation)
・通常のトリプレットリピート病は父親から遺伝した場合に増幅傾向が強いのに対して、
 本疾患では母親から遺伝した場合に強く増幅される。
・母親から遺伝した重症新生児が発見され、はじめて家系内蓄積が証明される場合もみられる。
 血縁者が軽症で疾患に気づかれない場合、sporadic な発生に見えることがある。
・白内障も軽症では自覚は少ない。しかし細隙灯での観察ではほとんどが証明できる。

神経症状と白質病変には相関はないとする報告がある* 。
    *Censori, B., Provinciali, L., Danni, M., Chiaramoni, L., Maricotti, M., Foschi, N., Del Pesce, M., Salvolini, U. Brain involvement in myotonic dystrophy: MRI features and their relationship to clinical and cognitive conditions. Acta Neurol. Scand. 90: 211-217, 1994.


IV What is this ?:随伴所見に焦点を当てる
これらの石灰化を含む皮下結節は何か?
・・・病理は取られていないが、疾患から推測可能である。

石灰化上皮腫(calcifying epithelioma of Melherbe)
毛母腫(pilomatricoma)ともいう。
・小児を中心とした皮膚腫瘍
・男女比は 1:2
・頭皮発生のまれに外板から頭蓋内に進展する腫瘍。
・画像的には強い増強効果、石灰化が特徴。
・βカテニン遺伝子(CTNNB1)の変異が原因とされている。  下流の WNTシグナル経路に作用、細胞増殖が起こる。

好塩基性細胞とゴースト細胞から構成されている。
筋強直性ジストロフィーにおいては石灰化上皮腫が 多発することが知られている。 症状に先行する場合も多い。*
DMPK のカルシウム調節機能の異常によるという説、 DMPK の mRNA スプライシング異常と βカテニンの異常に相互関係があるという説が出されている。

*Barberio E, Nino M, Dente V, Delfino M. Guess what! Multiple pilomatricomas and Steiner disease. Eur J Dermatol. 2002 May-Jun;12

頭皮、顔面、頚部、上肢などに好発。⇒頭部画像でも発見できる率が高い。
大脳鎌の石灰化や咀嚼筋萎縮と併存した場合は CT のみで診断できるかもしれない。

軽症型ながら典型的な画像所見を呈した 筋強直性ジストロフィーの症例を提示した。

 

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Moderator:住田 薫