筋強直性ジストロフィー myotonic dystrophy |
I 画像解説:提示画像のまとめ
【現病歴】15 才ころの発症で、既に診断名はついていた。(問題として伏せさせていただきました。) 理学所見上、前腕、手の筋萎縮を認め、両側の長短母指屈筋、手内筋など遠位筋優位に 3/5 程度の筋力低下を認めた。 |
▼ CT | ||
・大脳鎌の石灰化 ・石灰化した皮下結節 |
・石灰化を含む皮下結節 |
▼ MRI:T2WI | |||
・両側側頭葉極皮質下に 高信号域を認める。 |
・両側の島皮質下にも 高信号領域を認める。 |
・右頭頂葉皮質下白質に 高信号領域を認める。 |
・外側翼突筋の萎縮、脂肪化 |
▼ MRI:FLAIR |
▼ MRI:T1WI | ▼ MRI:DWI | |
・異常ははっきりしない。 | ・石灰化を含む皮下結節 |
・T2WI や FLAIR image での大脳皮質下白質、特に両側側頭葉極の高信号病変。
・咀嚼筋の萎縮。
・大脳鎌石灰化。
・皮下結節。
側頭葉極の対称性異常信号を示す疾患 | |
・CADASIL/CARASIL | 外包を含めた白質異常信号 |
・megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cysts | T1WI で低信号となる嚢胞形成 |
・筋強直性ジストロフィー | ★咀嚼筋の萎縮 |
・Menkes 病 | 動脈の蛇行、脳萎縮が強い |
・ALS-D | 錘体路症状を伴う認知症 |
・神経梅毒 | 意識障害、進行麻痺などの臨床症状 |
・Aicardi-Goutieres 症候群 | 小児の発症 |
・前頭側頭葉変性症の一部 | 認知症状が主体 |
本症例は、特徴的な顔貌、遠位筋優位の筋萎縮、 手の把持ミオトニア、舌のミオトニア、 筋電図のミオトニア電位などから、 臨床的に筋強直性ジストロフィーと診断されている。
II 疾患解説:いかなる疾患なのか
筋強直性ジストロフィー (DM:myotonic dystrophy)
・有病率は約 20000 人に1人。常染色体優性遺伝。
・古典型では若年に発症する筋力低下を主症状とする。
・成人発症では最多の筋ジストロフィー。
・遺伝子 DM1:19q13.32 あるいは DM2:3q21の異常。
・1 型は Steinert 病ともいわれる。
神経学的所見 | |
・把持ミオトニアの出現 =握ったものを放すことができない。 ・舌ミオトニア、クローバー舌 =舌を叩打すると収縮したままになる。 |
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神経学的所見 | |
・四肢遠位筋優位の萎縮が見られる (筋原性疾患の中でも例外的である!) ・咀嚼筋や胸鎖乳突筋の萎縮が強い。 特徴的な筋萎縮パターンから 「斧様顔貌」といわれる外見を呈する。 |
筋電図所見
刺入にともなって陰性、陽性棘波が出現。
高頻度放電と振幅、放電頻度の漸減、漸増現象を示す。その音は「急降下爆撃音」として表現される。
その他の特徴
・白内障が早発する。
・前頭部の脱毛
・心筋障害、房室ブロック、不整脈
・軽度の知能低下
・内分泌異常(糖尿病、 血清 IgG の低下)
画像所見
・大脳白質の T2 強調像、FLAIR 像での高信号。特に側頭葉極や島回に顕著。
・先天性の場合、側脳室三角部後上部にも異常信号。大脳鎌の石灰化があり、強いと前頭骨が肥厚する。
・MRS 解析ではNAAピーク低下があるとされる。
・同時に咀嚼筋萎縮が見られることが多い。
III 本症例の検討:非典型的であった理由とは
・本症例では筋力低下は前腕、手レベルで徒手筋力 3/5 程度と比較的軽症であった。
・家族歴としても家系内に症状を呈した者はなかった。
・前頭部脱毛は認めたが、白内障は自覚していなかった。⇒画像的には典型的だが、所見が目立たないのは何故か。
・本疾患では 19 番染色体に位置する Dystrophia myotonica protein kinase(DMPK と略称)の 3’ 末端に CTG リピートが増幅する。
つまり、トリプレットリピート病である。
・重症度はリピート数により決定される。⇒症状の発現の程度は症例間で非常に幅がある。
正常人では 5-37
軽症型では 50-150
通常型では 100-1000
重症先天型では 2000 以上 のトリプレットリピートが証明される。
・多くのトリプレットリピート病(脊髄小脳変性症、 Huntington 舞踏病)などと同様、世代を経るに従い蓄積する傾向がある。 (anticipation) ・通常のトリプレットリピート病は父親から遺伝した場合に増幅傾向が強いのに対して、 本疾患では母親から遺伝した場合に強く増幅される。 ・母親から遺伝した重症新生児が発見され、はじめて家系内蓄積が証明される場合もみられる。 血縁者が軽症で疾患に気づかれない場合、sporadic な発生に見えることがある。 ・白内障も軽症では自覚は少ない。しかし細隙灯での観察ではほとんどが証明できる。 |
神経症状と白質病変には相関はないとする報告がある* 。 | ||
*Censori, B., Provinciali, L., Danni, M., Chiaramoni, L., Maricotti, M., Foschi, N., Del Pesce, M., Salvolini, U. Brain involvement in myotonic dystrophy: MRI features and their relationship to clinical and cognitive conditions. Acta Neurol. Scand. 90: 211-217, 1994. |
IV What is this ?:随伴所見に焦点を当てる
これらの石灰化を含む皮下結節は何か?
・・・病理は取られていないが、疾患から推測可能である。
石灰化上皮腫(calcifying epithelioma of Melherbe)
毛母腫(pilomatricoma)ともいう。
・小児を中心とした皮膚腫瘍
・男女比は 1:2
・頭皮発生のまれに外板から頭蓋内に進展する腫瘍。
・画像的には強い増強効果、石灰化が特徴。
・βカテニン遺伝子(CTNNB1)の変異が原因とされている。
下流の WNTシグナル経路に作用、細胞増殖が起こる。
好塩基性細胞とゴースト細胞から構成されている。 | |
筋強直性ジストロフィーにおいては石灰化上皮腫が 多発することが知られている。 症状に先行する場合も多い。* | |
DMPK のカルシウム調節機能の異常によるという説、 DMPK の mRNA スプライシング異常と βカテニンの異常に相互関係があるという説が出されている。 |
*Barberio E, Nino M, Dente V, Delfino M. Guess what! Multiple pilomatricomas and Steiner disease. Eur J Dermatol. 2002 May-Jun;12
頭皮、顔面、頚部、上肢などに好発。⇒頭部画像でも発見できる率が高い。
大脳鎌の石灰化や咀嚼筋萎縮と併存した場合は
CT のみで診断できるかもしれない。
軽症型ながら典型的な画像所見を呈した 筋強直性ジストロフィーの症例を提示した。
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