IgG4 関連硬化性胆管炎 IgG4-related sclerosing cholangitis |
IgG4関連疾患 |
・IgG4 関連疾患は21 世紀に入って新たに提唱された全身性疾患である。
・組織学的にIgG4 陽性形質細胞やリンパ球浸潤による炎症及び線維化が涙腺、唾液腺、後腹膜、膵炎、胆管、
リンパ節等で起こり、臨床的にはMikulicz 病、後腹膜線維症、自己免疫性膵炎、原発性硬化性胆管炎類似の胆管病変などを呈する。
[包括概念]
1.臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性の腫大、腫瘤性病変
2.血清IgG4 値高値(>135 r/dl)
3.@IgG4陽性細胞がIgG 陽性形質細胞の40%以上
A生検標本の強拡大視野当たり10 個を超える
Definite1)+2)+3) Probable 1)+3) Possible 1)+2)
[疫学]
・中年の男性に多い
・検査所見ではIgG4 上昇、白血球増多やCRP、ESR 上昇、高IgE 血症、好酸球増多
・頻度は 10 万人に0.28-1.08 人程度
臓器特異的診断基準がある
・自己免疫性膵炎診断基準 2006 年
・IgG4関連Mikulitz 病診断基準 2008 年
・IgG4 関連腎臓病 2011 年
IgG4関連硬化性胆管炎
・IgG4関連疾患として知られる以前から非典型的な原発性硬化性胆管炎が言われていた
・IgG4 関連疾患の概念の確立によって原発性硬化性胆管炎(以下PSC)との鑑別が整理された
・自己免疫性膵炎を合併しない症例は10%以下と稀であるが存在する
・IgG4関連疾患の中での合併頻度は4 割程度
IgG4関連硬化性胆管炎診断基準2012 |
診断項目
1.胆道画像検査にて肝内・肝外胆管にびまん性,あるいは限局性の特徴的な狭窄像と壁肥厚を伴う硬化性病変を認める
2.血液学的に高IgG4 血症(135mg/dl 以上)を認める
3.自己免疫性膵炎,IgG4 関連涙腺・唾液腺炎,IgG4 関連後腹膜線維症のいずれかの合併を認める
4.胆管壁に以下の病理組織学的所見を認める
@高度なリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化
A強拡1 視野あたり10 個を超えるIgG4 陽性形質細胞浸潤
B花筵状線維化(storiform fibrosis)
C閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)
オプション:ステロイド治療の効果
胆管生検や超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration,
EUS-FNA)を含む精密検査のできる専門施設においては,胆管癌や膵癌などの悪性腫瘍を除外後
に,ステロイドによる治療効果を診断項目に含むことができる
T.確診:1+3,1+2+4@A,4@AB,4@AC
U.準確診:1+2+オプション
V.疑診:1+2
ただし,胆管癌や膵癌などの悪性疾患,原発性硬化性胆管炎や原因が明らかな二次性硬化性胆管炎
を除外することが必要である.診断基準を満たさないが,臨床的にIgG4 関連硬化性胆管炎が否定
できない場合,安易にステロイド治療を行わずに専門施設に紹介することが重要である.
IgG4関連硬化性胆管炎とPSC |
・画像上で類似し鑑別の対象となるのはPSC である
・血清IgG4 値の正常なIgG4関連硬化性胆管炎の症例が1-2割あるとされる
・PSC でもIgG4高値の症例がみられる
・ステロイドが著効する本症と肝不全に将来的に陥り、肝移植のみが治療法となるPSC を鑑別することは臨床的に重要である
【IgG4 関連胆管炎とPSC 疫学的相違点】 | ||
IgG4 関連胆管炎 | PSC | |
性別 | 男>女 | 男>女 |
年齢 | 中高年 | 若年者>中高年 |
発症様式 | 黄疸 | 肝機能障害 |
検査成績 | 抗核抗体陽性 IgG4 高値 sIL-2R 高値 |
抗核抗体陽性 ANCA 陽性 IgG4低値 |
他臓器病変 | 自己免疫性膵炎 慢性硬化性唾液腺炎 後腹膜線維症 その他IgG4 関連病変 |
炎症性腸疾患 |
治療 | ステロイド | 肝移植 |
病変の局在 | 限局性>びまん性 全層性 |
びまん性 胆管内腔側 |
腫瘤形成(偽腫瘍) | あり | なし |
リンパ球・形質細胞 | あり | あり |
好酸球浸潤 | あり | あり |
黄色肉芽腫性炎症 | なし | あり |
上皮のびらん性変化 | 弱い | 強い |
胆管上皮の異型性 | なし | 時にあり |
付属腺周囲の硬化性炎症 | 強い | 弱い |
閉塞性静脈炎 | あり | なし |
IgG4陽性細胞の浸潤 | 多数 | 少数 |
IgG4 関連硬化性胆管炎の胆管像
・全周性の壁肥厚
・10 o≦の長い狭窄と末梢胆管の拡張
・下部総胆管の狭窄
教科書的な所見は以上であるが、一筋縄ではいかない事が多い
PSC 様の病変を呈するものはIgG4関連疾患以外にもサルコイドーシスや結核、アミロイド―シス等もある。
病理学的には胆管壁または周囲のグリソン鞘をびまん性に線維性/硬化性に侵す病変は画像上は同
様の所見を取りうる
[悪性病変]
胆管癌 膵癌や十二指腸癌の胆管浸潤
良性病変(炎症性疾患、感染性疾患)
PSC
IgG4 関連胆管炎 結核 サルコイドーシス アミロイド―シス 総胆管結石 医原性狭窄
再発性化膿性胆管炎 HIV 関連胆管炎 化学療法関連胆管炎 Miritti 症候群 Portalbiliopathy
IgG4 関連硬化性胆管炎の画像所見
・全周性の壁肥厚
・10 o≦の長い狭窄と末梢胆管の拡張
・下部総胆管の狭窄
・その他のIgG4関連疾患を示唆する画像所見の存在
IgG4関連胆管炎とステロイド
・ステロイドが著効するが、その判定項目は臨床所見や血液検査所見でなく画像所見とされる
・診断的治療目的でステロイドを使用する安易に使用するのは悪性腫瘍の一部では反応を示す症例もあり、慎むべきである
・可能な限り組織診を可能な限り行うべきである
まとめ |
・血清IgG4 値の正常なIgG4 関連硬化性胆管炎 の一例を経験した
・多彩な所見を全身に呈するIgG4 関連疾患においては画像所見を詳細に評価する事で診断に迫れる
・IgG4 関連疾患はPSC 等の他の疾患と異なりステロイドの効果が期待できるため、画像診断の役割は大きい
参考文献
・Umehara H et al Mod Rheumatol(2012)22:1-14
・平野賢治等 自己免疫性膵炎の膵外病変 胆と膵 26:761-768
・神澤輝美等 胆と膵 25 巻1 号 86-93(2011)
・神澤輝美等 胆と膵 33 巻6 号 499-502(2012)
・全陽等 胆道 22 巻5 号658-668(2008)
・肝胆道系の画像診断 山下康之等 秀潤社
・IgG4 関連硬化性胆管炎臨床診断基準2012 胆道26 巻1 号59〜63(2012)
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