卵巣内膜症性嚢胞 ovarian endometriotic cyst |
画像所見のまとめ |
・骨盤上部右壁に沿った、径8cm程の境界明瞭な八頭状の多房性嚢胞性腫瘍。
・腫瘍を構成する各嚢胞成分の大きさ・信号強度は不均一。
T2WIで一部はhemosiderinを反映した強い低信号を示し、脂肪抑制T1WIでは各嚢胞成分は出血を反映した高信号が主体。
・造影される厚い被膜や隔壁を有し、一部は充実結節様。
・腫瘍周囲などに少量の血性腹水。
・造影CTにて腫瘍から下大静脈へ合流する、右卵巣静脈と思われる血管を確認。
・子宮全摘後。左卵巣は左付属器領域に正常に認められる。
・骨盤内・傍大動脈領域に有意なリンパ節腫大なし。
・大網に明らかな播種結節は認めないが、大網の一部がやや混濁。
術前診断 |
子宮術後、温存された移動卵巣に生じた右卵巣内膜症性嚢胞
・境界悪性〜悪性病変である可能性.
・minor ruptureや感染合併の可能性.
・鑑別を挙げるとすれば,虫垂・回盲部由来の病変.
両側卵巣切除術
+大網部分切除術
▲ 術中写真&右卵巣摘出標本 | |
▲ 右卵巣摘出標本・肉眼像 | |
▲ 病理所見(HE染色) 弱拡/強拡 |
卵巣内膜症性嚢胞 悪性所見なし
・本症例は通常より高位に卵巣が存在し、子宮全摘後であったため、以前にTRCでも呈示されたことのある卵巣温存術後の移動卵巣の病変を安易に疑ってしましたが、内膜症性変化による癒着によって骨盤内の高位に偏位していた症例でした。
・通常、卵巣温存術は子宮頸癌での広範子宮全摘術後に適応となりうる術式で、放射線照射を避けるため骨盤外に吊り上げられます。
・病変の由来を考える際、脈管構造から推測すること、見慣れない所見に遭遇した際、commonな疾患のuncommonな病態から考えること、の大切さを再認識した症例であり、呈示致しました。
卵巣機能温存のための傍結腸溝への卵巣移動術 |
目的:広範子宮全摘術後に全骨盤照射を施行する場合でも卵巣への照射線量を減らして卵巣機能の廃絶を防ぐため。
術式:➀傍結腸溝腹膜の切開を頭側に延長。
➁卵巣提索を周囲の腹膜を少し残した形で遊離。
➂その腹膜と傍結腸溝腹膜の上端に縫合・固定して、骨盤外(腸骨稜より頭側)に移動。具体的には照射野から4cm以上離す。
* 他、腹部の皮下組織へ移動させることもあり。
適応:卵巣転移のない、閉経前(主として40歳代以下)の、子宮頸癌(扁平上皮癌)Tb〜U期まで(転移率0.5%以下)。
* 腺癌では転移率が2-18%と高率であり原則適応外。
* 卵巣転移の危険因子である腫瘍径(4cm以上で有意に増加)・子宮傍結合織への浸潤・子宮体部への進展・脈管侵襲も考慮して慎重に検討。
* 子宮体癌は卵巣転移や重複癌のリスクが高く原則適応外。
参考文献
・OGS NOW 機能温存の手術 , Medical view: 138-147
・子宮頸癌治療ガイドライン2011: 82-84
・Belinson, Surg Gynecol Obstet 1984; 159: 157-160
・Fujiwara, Int J Gynaecol Obstet 1997; 58: 223-228
・子宮体がん治療ガイドライン2009: 43-45
・子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドラインの解説
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