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第 357 回 東京レントゲンカンファレンス[2015年1月22日]
症例8 50歳代 男性 : 自発痛のない歯肉違和感
Cowden 病
Cowden disease


 本症例の画像所見

・左小脳半球腫瘤
 T2WIでいわゆるTiger-stripe pattern. (低信号と高信号の縞模様)
 腫瘤の造影効果はない。腫瘤内(肥大した小葉間)に拡張した静脈が走行。
   ⇒ Lhermitte-Duclos Disease
・胃全体に無数のポリープ様隆起性病変
   ⇒ のちに内視鏡で食道ポリポーシス、胃ポリーポーシスが確認された。
・歯肉腫脹。舌に乳頭状多発隆起あり。高口蓋。
・甲状腺結節。
・頚部、両側副腎領域に多発脂肪腫。
・右頚部に動静脈奇形。
以上の所見の組み合わせから、Cowden Disease(Cowden Syndrome)と診断可能である。


 診断:Cowden Disease(Cowden Syndrome, 以下CS)

・全身に過誤腫が多発する症候群。悪性腫瘍の発生リスクも上昇する。
・常染色体優性遺伝(ただし、多くは孤発性)。
・癌抑制遺伝子であるPTEN遺伝子の異常(CS患者の85%程度)。

注)PTEN:Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10
注)PTEN遺伝子異常により過誤腫が多発する症候群はほかにもある。
PTEN hamartoma tumor syndrome
 -Cowden syndrome
 -Bannayan-Riley-Ruvalcaba syndrome  
 -PTEN-related Proteus syndrome
 -Proteus-like syndrome


 CSの診断基準(青字は本症例で認めたもの)

特徴的基準 大基準 小基準
成人Lhermitte-Duclos病
皮膚粘膜病変
 -外毛根鞘腫(顔面)
 -四肢角化症
 -乳頭腫病変
 -粘膜病変
乳癌
甲状腺癌(特に濾胞癌)
子宮内膜癌
大頭症
その他の甲状腺病変
精神発達遅滞(IQ≦75)
過誤腫性消化管polyps

乳房線維嚢胞性疾患
脂肪腫
線維腫
泌尿生殖器系腫瘍
泌尿生殖器系奇形
子宮筋腫

家系にCS患者がいない場合 家系にCS患者がいる場合
 -特徴的な皮膚粘膜病変
 -大基準2つ以上
 -大基準1つ+小基準3つ以上
 -小基準4つ以上
 -特徴的基準
 -大基準1つ以上
 -小基準2つ以上
 -Bannayan-Riley-Ruvalcaba Syndromeの既往

・悪性腫瘍の生涯発生リスクは
  乳癌(女性の25-50%)、甲状腺癌(10%)、子宮内膜癌(女性の10%)。
  皮膚癌、腎細胞癌、脳腫瘍のリスクもCS患者で上昇。
・血管奇形もPTEN hamartoma tumor syndromeでしばしば見られる。

 

 Lhermitte-Duclos Disease(以下LDD)

・Dysplastic Cerebellar Gangliocytoma。Dysplastic ganglion cellからなる小脳良性腫瘤。
・WHO gradeT(HamartomaなのかNeoplasmなのかは議論あり)。
・LDDの40%がCS。CS患者の15%にLDDあり。
・無症状 or 脳圧亢進症状 → 症状があればVP shunt, surgical debulking。
・何年もかけて緩徐増大。

<画像所見>
・T2WIで“Tiger-Stripe pattern”。 ・・・診断的所見!
・腫瘤の造影効果はほぼない。肥大した小葉間に拡張した静脈が走行。
・DWI高信号(細胞密度の高さを反映)。
・rCBV増加(拡張した静脈を反映)
・石灰化は稀。出血・壊死はない。

 

 皮膚粘膜病変

・CS患者の99%が30歳までに皮膚粘膜病変を呈する。

 

 過誤腫性消化管polyps

・日本人CS患者の95%に消化管polyposisあり。
・食道polyposis(Glycogenic Acanthosis)はCSに特徴的(CSの85.7%)
・胃polyposisは胃全体にびまん性の分布。大きさは不揃い。
 Cf. 家族性大腸腺腫症では、無数の胃底腺polyp+前庭部腺腫。
 Cf. Peutz-Jeghers syndromeでは、散在性に有茎性・分葉状の過誤腫性polyp。
・十二指腸、小腸にもpolyposisあり。大腸はS状結腸-直腸で比較的密にpolypがみられるが、ほかは散在性。

 

 Take Home Massage

・PTEN hamartoma tumor syndromeの1つであるCowden Diseaseを知る。
 疑ったら皮膚・口腔診察、消化管内視鏡、脳を含む全身画像検索、家族歴聴取を。
・MRI T2WIで小脳に“Tiger-stripe pattern”を示す腫瘤を見たらLhermitte-Duclos Diseaseと診断できる。
・CTでは管腔臓器や口腔にも目を向ける。食道polyposisはCowden Diseaseに特徴的。
・診断がついたら悪性腫瘍発生の監視が重要。

 

 


参考文献

  • Osborn AG, Osborn’s BRAIN Imaging, Pathology, and Anatomy: 530-533, 1158-1159
  • Meltzer CC, et al. The Striated Cerebellum: An MR Imaging Sign in Lhermitte-Duclos Disease(Dysplastic Gangliocytoma). Radiology 1995; 194: 699-703
  • Eng C, et al. GeneReviews, PTEN Hamartoma Tumor Syndrome(PHTS)
  • Pilarski R, et al. Cowden Syndrome and the PTEN Hamartoma Tumor Syndrome: Systematic Review and Revised Diagnostic Criteria. J Natl Cancer Inst. 2013;105; 1607-1616
  • Ken U, et al. Gastrointestinal polyposis with esophageal polyposis is useful for early diagnosis of Cowden’s disease. World J Gastroenterol 2008; 14: 5755-5759
  • Saint-Gerons RS, et al. Oral manifestations of Cowden’s disease. Presentation of a clinical case. Oral Medicine and Pathology 2006; 11: E421-424

 


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