梅毒関連大動脈炎、精巣ゴム腫 syphilis-associated aortitistesticular、gumma |
経過 |
以前より両側陰嚢の硬結を自覚していたが放置していた。その後、咳嗽・発熱を主訴に来院した。
精査開始し、血管炎と精巣腫大が認められた。
結核や腫瘍マーカーは陰性で、梅毒抗体陽性であり下記診断となった。
診断:
梅毒関連大動脈炎、精巣ゴム腫
syphilis-associated aortitistesticular、gumma
鑑別疾患 |
結核、高安病、悪性リンパ腫、IgG4関連疾患など
梅毒 |
<梅毒感染の血液検査>
STS法 | TP抗原法 | 結果の解釈 |
RPR法 | TP抗体,FTA-ABS | |
(−) | (−) | 非感染 感染の極初期 |
(−) | (+) | 治癒後or治療後の抗体保有 TP抗原法の偽陽性 |
(+) | (−) | 感染の初期 生物学的偽陽性 |
(+) | (+) | 梅毒非治癒(早期〜晩期) 治療後の抗体保有 |
梅毒:一般知識
・先天梅毒(経胎盤感染)と後天梅毒(性感染)とがある。
・1960年代ペニシリンGの登場で激減したが、2010年以降は激増している。
<後天梅毒の経過>
感染からの期間 | 症状 | 特徴 | |
潜伏期(〜3週) | |||
早期 | 第1期(3週〜) | ・無症状 ・初期硬結(陰部の丘疹) ・硬性下疳 |
・感染力強い ・その後長期潜伏期に移行 |
第2期(3ヶ月〜) | ・微熱,倦怠感 ・丘疹性梅毒疹,乾癬 ・扁平コンジローマ |
・感染力強い ・血行性播種による全身症状 ・60%が治癒 |
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晩期 | 第3期(3年〜) | ・皮膚,骨,臓器のゴム腫 ・結節性梅毒疹 |
・現在ではまれ |
第4期(10年〜) | ・神経梅毒 ・大動脈炎,大動脈瘤 |
・現在ではまれ |
梅毒性大動脈炎 |
梅毒性大動脈炎:一般知識
・Treponema pallidum により、大動脈の栄養血管に炎症が起こり、肉芽腫を形成する。
・肉芽腫により中膜が破壊されると血管壁は脆弱となり瘤が形成される
・合併症として、動脈瘤(40%)、大動脈弁閉鎖不全(25%)、冠動脈弁口狭窄(28%)がある。
無症候性で合併症のないものもある(36%) 。
梅毒性大動脈炎:画像所見
急性期 | 単純 CT で動脈壁は肥厚し、高吸収を示す。 造影CTでは動脈壁はほぼ均一に増強され、高安病で知られる double ring-like signを認めることもある。 |
慢性期 | 石灰化は上行・弓部大動脈のみで、腹部大動脈には認められず、通常の動脈硬化性変化と鑑別点である。 |
瘤形成 | 上行、弓部、下行の順に多く、腹部大動脈瘤はまれ。嚢状が多い。 |
梅毒性精巣炎(ゴム腫) |
一般知識
・ゴム腫はどの臓器にも生じうる炎症性肉芽腫。
・精巣発生は稀で1965年移行の報告は本邦で5例。世界的にも少ない。
・片側性/両側性の精巣腫大や硬結。多くは無痛性。
・中心部壊死が知られている。
画像所見
・まとまった報告はない
・T2WIで等〜高信号とされるが,中心部壊死は低信号を示す
・悪性腫瘍の否定は困難
晩期梅毒:診断と治療 |
・確定診断は組織中の Treponema pallidum 検出だが、臓器組織障害を伴うような晩期梅毒では検出できない場合が多い。
・病理所見と梅毒感染を示唆する既往や臨床経過、画像所見とあわせて判断する。
・治療はペニシリン投与。外科治療。
結語 |
晩期梅毒はまれであるが、近年梅毒感染は増加傾向であり、今後経験する機会があるかもしれない。
血管炎を見た時、全身の臓器にゴム腫を疑うような所見があれば梅毒を鑑別に挙げたい。
参考文献