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第 366 回 東京レントゲンカンファレンス[2016年2月25日]
症例1 40歳代 女性 : 頭痛、視力障害
脳幹型PRES
posterior reversible encephalopathy


 基礎疾患

MCTD(混合性結合組織病)
・MCTD:
 強皮症、SLE、DM/PMを思わせる臨床所見が同一患者に同時あるいは経過中に認められる+抗U1-RNP抗体が陽性となる疾患
・初発症状としてはレイノー症状が最多(70%)
・本症例は、抗U1-RNP抗体陽性、レイノー症状あり、強皮症腎クリーゼ+後に心膜炎(SLE症状)があり、MCTDの診断基準を満たす

強皮症/腎クリーゼ
・MCTDから強皮症やSLEへの移行(1疾患の重症化)の報告は以前より多くある。
・抗RNAポリメラーゼ抗体は強皮症の5%前後に見られ、陽性例で腎クリーゼ発症が多い。

腎クリーゼ
・強皮症の1~5%に合併にする急性腎障害で、高血圧がほぼ必発。
・病態:腎細小動脈の狭窄/攣縮、血栓性微小血管障害症(TMA)に起因。

本症例の発症時の病態
・MCTDを基礎疾患に持つ患者(抗RNAポリメラーゼ抗体陽性)に、強皮症症状が強く出現、腎クリーゼを来たし、腎障害/高血圧を呈した状態。高血圧の有無は不明であったが、血液検査所見から膠原病の病勢の悪化、TMAの初期状態→腎クリーゼであったことが予想できる。MRIでは基底核にT2WI/FLAIRで左右対称性の高信号を認めるが、DWIでの高信号/ADC値の低下は認めず、血管性浮腫と考えられる。脳幹型PRESが疑われる。

経過
・降圧治療後に画像所見の改善を認め、脳幹型PRESと診断。*視力障害は高血圧による眼底出血によるものであった。

 

 PRES

・PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome)/RPLS(reversible posterior leukoencephalopathy):
 血管透過性亢進・血管内皮細胞障害を原因とする可逆性脳症。血管性浮腫で原疾患の治療により回復することが多い。
・原因は、高血圧の他に、子癇、片頭痛、TMA(TTP/HUS)、膠原病、抗癌剤など多岐にわたる。
・血圧自己調節能の低い椎骨・脳底・後大脳動脈領域→典型的には後頭葉に病変を生じる。
・血管性浮腫を反映し、ADC値の低下は通常は見られない。
・後頭葉の他にも頭頂葉、基底核、脳梁、脳幹、小脳にも病変を認め得る。

脳幹型PRES
・橋を中心に脳幹に腫大と高信号を認めるPRESは脳幹型PRESとも言われ、画像所見に比して症状が軽いことが特徴。
  “The patient looking better than MRI”

 

 鑑別診断

高血圧の存在が知られている場合は、鑑別疾患はほとんどなし、と言ってよい。
本症例のように高血圧の有無が不明な場合は、膠原病に伴う血管炎、CLIPPERS(Chronic Lymphocytic Inflammation with Pontine Perivascular Enhancement Responsive to Steroid)が鑑別に挙げられる。

 

 まとめ

・MCTDを基礎疾患とした強皮症腎クリーゼに合併し、脳幹を主体とする画像所見を呈したPRESの1例
・脳幹型PRESは画像所見に比して臨床症状が軽いことが多い。
・高血圧が知られる症例のみならず、膠原病などの基礎疾患を有する症例の後頭蓋窩病変では常に鑑別に考える。

 



参考文献

  • 柳下章 著 神経内科疾患の画像診断 第10 章 脳浮腫と髄液循環異常 p416-419
  • T.Y.Chen et al. MR Imaging Findings of Medulla Oblongata Involvement in Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome Secondary to Hypertension. AJNR Am J Neuroradiol 2009 755-757