メタノール中毒 methanol intoxication |
鑑別診断 |
T2強調画像、拡散強調像で基底核に左右対称性の高信号を呈しうるもの
・低酸素脳症 → 大脳皮質、線条体
・低血糖脳症 → 基底核・海馬・大脳皮質
・深部脳静脈血栓症 → 視床・基底核
・Wilson病 → 被殻の外側縁・外包
・Creutzfeldt-Jakob病 → 線条体・大脳皮質
いずれも臨床経過から合致しない
・中毒は? → 各原因物質による。
『神経放射線診断 Update』秀潤社
『よくわかる脳MRI』秀潤社
疾患 | 原因物質 | 障害部位(特徴的な部位) |
中毒性疾患 | 一酸化炭素 | 淡蒼球 |
メタノール | 被殻 視神経 | |
エチレングリコール | 脳幹部 | |
トルエン | 中小脳脚 | |
有機リン | 線条体 | |
コカイン | 淡蒼球、脳梁膨大部 | |
薬剤性疾患 | メトトレキセート | 大脳深部白質 |
メトロニダゾール | 小脳歯状核 | |
その他 | スギヒラタケ | 基底核(被殻、淡蒼球) 外包 |
『神経放射線診断 Update』 秀潤社
『新版 所見からせまる脳MRI』 秀潤社
メタノール中毒 |
・燃料用アルコール、不凍液、工業用アルコールなどに含まれる。
・摂取後数時間以内に一過性酩酊状態となり、6〜12時間ほどで全身倦怠感・頭痛・嘔吐・腹痛・視野障害などが生じる。
・体内でホルムアルデヒド
→ギ酸に代謝され、ミトコンドリア内でチトクロムオキシダーゼを阻害し細胞内低酸素や代謝性アシドーシスを引き起こす。
・100%メタノールで最小致死量は30-100ml、失明惹起量は4-10ml程度。個体差がある。
『神経放射線診断 Update』秀潤社
An J Kidney Dis ;68(1):161-167
日救急医会誌;2005;16:175-181
【画像所見】
・両側被殻の出血性壊死
・視神経及び皮質下白質に及ぶことがある
—病理学的には乏突起膠細胞の脱髄性変化
—被殻に特異的に障害が出る機序は不明
・CTで低吸収
・DWI・T2WIやFLAIRで高信号
J Comput Assist Tomogr 2006;30(5):742-44
J Park Med Assoc. 2012;62(10):1099-101
Ann Saudi Med. 2013;33(1):18-9
【疫学】
・第二次大戦終戦から1946年7月までの12ヶ月間に1575人が死亡し、109人が失明。
・平成11年食品衛生法にて中毒よりメタノールの項目削除。
・現在は日本では年30例程度の報告がある。
・2016年3月に夫に燃料用メタノールを飲ませた殺人事件があった。
【治療】
・アルコール脱水素酵素の抑制
—エタノールもしくはホメピゾールを投与し、メタノール代謝を抑制する。
・透析
—メタノール、ギ酸ともに除去可能。
—メタノールの半減期54時間→2時間へ短縮。
日救急医会誌;2005;16:175-181
An J Kidney Dis ;68(1):161-167
結語 |
・画像所見から診断に至ったメタノール中毒の1例を経験した。
・自殺企図や薬物接種歴など正直に言わないこともあり、画像所見から原因物質を推測しえることがある。
参考文献