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第 372 回 東京レントゲンカンファレンス[2016年11月24日]
症例5 70歳代 女性 : 両手指のしびれ、立ちくらみ
脳脊髄液減少症
cerebrospinal fluid hypovolemia(CSF hypovolemia)

 

【既往歴】
高血圧
右聴神経腫瘍術後(18年前)
術後水頭症に対してVPシャント術後(18年前)
術後の右聴力障害及び右顔面神経麻痺(18年前〜)
甲状腺乳頭癌術後(6年前)

【画像所見】
頸椎MRI:硬膜外静脈叢の拡張
頭部MRI:VPシャント留置後、びまん性の硬膜肥厚、下垂体の腫大

【臨床経過】
・症状、既往歴、画像所見から、VPシャントによる脳脊髄液減少症疑いとなり、VPシャントをクランプした。
・クランプ後、症状の改善が見られ、シャントを抜去した。
・シャント抜去後の頭部及び頸椎MRIで硬膜の肥厚や硬膜外静脈叢の拡張は改善し、髄液量も軽度増加。
 水頭症の出現なく退院となった。
・外来の経過観察でも手指のしびれは軽度残存するものの、ふらつきは消失し、経過は良好である。


 脳脊髄液減少症

・脳脊髄の漏出によって引き起こされる起立時の牽引性頭痛を主症状とする疾患。
・その他に、脳神経症状(特に[:耳鳴り、難聴、回転性眩暈、X:顔面痛、顔面しびれ感)、思考力低下、
 集中力低下、うつ症状などの症状が出現する。また硬膜外液体貯留による神経根症や脊髄症をきたすこともある。
・原因は、脳脊髄液の漏出(外傷性、特発性、医原性)や脳脊髄液の産生低下などが挙げられる。
・特発性脳脊髄液減少症については、女性に多く、20〜30代に発症のピークがある。
稀に、水頭症患者において、VPシャント施行後、それからの髄液の引きすぎによって脳脊髄液減少症となることがある。

【画像所見】
髄液漏出の直接所見
 ・CTミエログラフィ、MRミエログラフィ、脳槽シンチグラフィ

髄液漏出の間接所見
 ・硬膜下水腫・血腫、下垂体の腫大、頭蓋内静脈の拡張
 ・硬膜の肥厚・濃染(dura-arachnoid pattern)
 ・脳の下垂や脳槽の狭小化、脳脊髄液の減少
 ・硬膜外静脈叢の拡張、硬膜外腔や傍脊椎領域の液体貯留 など
 <モンロー・ケリーの法則>
 ・頭蓋内で脳と脊髄と髄液量の総和は一定である。
 ・何らかの減少分は他の要素の増加で補われる。

 

 Take home message

・VPシャントも脳脊髄液減少症の原因となり得る。
・症状は多岐にわたり、頸椎などの神経根症を主訴に脊椎MRIが施行されることもある。
 その場合、硬膜外静脈叢の拡張が見られることがあり、診断のヒントとなり得る。

結語:VPシャントによって脳脊髄液減少症が生じた1例を経験した。

 


参考文献

  • 柳下章:神経内科疾患の画像診断.第1 版, 学研メディカル秀潤社, 2011
  • 細谷貴亮, 他:脳のMRI. 第1 版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015