鉄剤誤嚥による気管支狭窄 bronchial stenosis caused by aspiration of an iron tablet |
画像所見 |
7月/7月/9月 |
・右肺底幹気管支に全周性の気管支壁肥厚を認め、内腔はピンホール状に狭窄している。 壁肥厚部は高吸収を示す。経時的に壁肥厚は増強し、末梢側の気管支内腔には閉塞像を認める。 ・PET-CT上はSUVmax 2.7と軽度の集積亢進を示している。 |
鑑別 |
気管支内腫瘍 神経内分泌腫瘍 粘表皮癌 腺様嚢胞癌 過誤腫 平滑筋腫 横紋筋腫 気管支粘液腺腫 扁平上皮癌 転移性腫瘍 |
全周性気管支壁肥厚 Wegener肉芽腫 サルコイドーシス 炎症性腸疾患 挿管後狭窄 アミロイドーシス 感染;クレブシエラ、真菌感染、結核 |
臨床経過 |
・右肺底幹気管支は病変により高度狭窄、経時的に狭窄は進行しており、悪性腫瘍の可能性が否定できなかった。
・10月、気管支鏡下にバルーン拡張術およびホットバイオプシーを施行する方針となった。
気管支鏡検査 |
右肺底幹気管支は高度狭窄し、気管支粘膜は鬱血浮腫状で潰瘍を伴っていた。 バルーン拡張後、内腔は開存し内部から膿性痰が吸引された。 |
病理 |
A(HE染色、弱拡大)褐色色素の沈着を伴う浮腫性の肉芽組織 B(鉄染色、中等度拡大)褐色の結晶物を取り込んだ肉芽組織 C(鉄染色、中等度拡大)結晶物は鉄染色にて陽性 |
診断 |
病理診断: Granulation tissue with foreign body giant cells containing calco-ferruginous materials
CT上、気管支腔の閉塞が認められた事、病理学的に気道壁に肉芽組織、線維化を伴う炎症が認められた事から閉塞性気管支炎を考えた。
肉芽組織内には著明な鉄成分の含有を認め、喀血の既往無く、数年前から乾燥硫酸鉄(テツクール徐放剤®)を内服していた事から鉄剤誤嚥による変化が疑われた。
最終診断:鉄剤誤嚥による閉塞性気管支炎
【考察】鉄剤による気道上皮障害の機序
・本例は鉄剤による気道上皮障害が原因と考えられる。機序として徐放性鉄剤の2価鉄による細胞膜障害が原因と推定される。
高後裕他. 外科と代謝・栄養49:59-64 2015.・2価鉄から3価鉄への酸化により産生されるHydroxyl radicalが気道上皮細胞膜の脂質と反応し、過酸化脂質を生じることによる細胞膜障害から炎症が引き起こされる。
Abbarah TR. JAMA 1976 ; 236 : 2320.
Tarkka M. Chest 1988 ; 93 : 439―441.
藤田直他. 薬学雑誌122 :203-218, 2002.
高後裕他. 外科と代謝・栄養49:59-64 2015.
閉塞性気管支細気管支炎 |
〜名称の変遷〜
・Bronchiolitis obliterans(Lange, Dtsch Arch Klin Med 1901)
・Constrictive bronchiolitis(Goshink BB, AJR 1973)
・Obliterative bronchiolitis(Geddes DM, Thorax 1981)
・Bronchiolitis obliterans organizing pneumonia(Epler, N Eng J Med 1985)
・Follicular bronchiolitis(Yousem SA, Hum pathol 1985)
・閉塞性気管支細気管支炎(山中 晃, 日胸 1986)
・Cellular bronchiolitis(Colby TV. Homma S, AM J clin pathol 1998)
小気管支から膜性細気管支を主に冒し、びまん性の場合、高度の呼吸障害を惹起する炎症性気道病変である。
病理所見のパターンは以下の2種類が知られている。
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・自己免疫疾患に合併することが多い。 ・病変は断続性である。 ・気道内腔の病変が主体であり、壁の破壊をともなわず、 壁周囲の炎症も軽度である。 ・肺胞領域の炎症はともなわない。 ・気管支拡張をともなうことは稀である。 |
・慢性副鼻腔炎を高頻度に合併する。 ・高度の気道感染症をともなう症例が多い。 ・病変は連続性である。 ・気道壁の破壊が高度で肺胞を巻き込む。 ・気管支拡張をともなう。 |
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蛇澤晶. 呼吸 27:265-274, 2008 |
Take Home Message |
・鉄剤誤嚥による障害は時として重篤となり、誤嚥高リスク患者には注意深い観察と早期発見が重要である。
・閉塞性気管支細気管支炎は絞扼型と破壊型に大別される。各々の病因を理解し、病理所見と画像所見の相関を理解する必要がある。
参考文献
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