第 386 回 東京レントゲンカンファレンス[2018年9月27日]
胎盤部トロホブラスト腫瘍 placental site trophoblastic tumor(PSTT) |
妊娠性絨毛性疾患 gestational trophoblastic disease |
栄養膜細胞(子宮への胚の付着・胎盤形成に関与する細胞)を発生母地とする疾患の総称。
・胞状奇胎(完全・部分)
・侵入奇胎*
・絨毛癌*
・placental site trophoblastic tumor(PSTT))*
・epithelioid trophoblastic tumor(ETT)*
*妊娠性絨毛性腫瘤 (GTN)gestational trophoblastic neoplasia
存在診断には画像診断は大きな役割を果たすものの各絨毛性疾患間の決定的な画像所見の鑑別点はない。
妊娠絨毛性腫瘍の特徴 |
臨床的特徴 | 侵入奇胎 | 絨毛癌 | PSTT | ETT |
臨床症状 | 性器出血 | 性器出血 | 流産, 無月経 | 性器出血 |
好発年齢 | 20-30歳 | 平均30 | 平均30 | 平均36 |
B-hCG値(mIU/mL) | 高値 | 10万以上 | 1000以下 | 3000以下 |
好発部位 | 体部 | 体部 | 頸部, 峡部, 体部 | |
先行妊娠 | 胞状奇胎 | 満期産 胞状奇胎 |
満期産 | 満期産 |
初発時転移 | なし | 血行性 | リンパ行性 | リンパ行性 |
治療 | 化学療法 | 化学療法 | 子宮摘出 | 子宮摘出 |
胞胚(胚盤胞)の着床
細胞性栄養膜細胞:絨毛の発生過程で最初に出現。この細胞の増殖により絨毛の基本構築が形成される。
合胞体性栄養膜細胞:細胞性栄養膜細胞から分化した。絨毛の最外層を構成し胎盤の生理機能を司る。母胎血に接する面で胎児側への物質の輸送や各種ホルモンの産生を行う。hCGの産生が顕著になる。
中間型栄養膜細胞:細胞性/合胞体性以外の栄養膜細胞。細胞形態や内分泌活性などの機能が細胞性と合胞体性栄養膜細胞の中間的存在であることから、中間型栄養膜細胞と称されている。
胎盤部トロホブラスト腫瘍:placental site trophoblastic tumor(PSTT) |
概念
胎盤着床部の中間型栄養膜細胞由来(類似した)細胞の増殖により子宮内腔、筋層に腫瘤形成する絨毛性疾患。
腫瘍細胞集塊が子宮平滑筋層に分け入るように増殖。
・症状:無月経あるいは不正性器出血。
・年齢:20歳台-40歳台, 30歳前後に多い。
・発症:先行妊娠から約1年から18年後(平均6.2年)。
満期分娩後(50-70%最多)、自然流産、人工妊娠中絶後。絨毛疾患の1-2%。きわめてまれ。
•絨毛癌と比較しhCGの産生低い。
•血中hCG値<1000IU/mL。
画像
・US:子宮内腔に突出する充実腫瘤として描出され、内部に血管拡張による嚢胞様構造を伴うことがある。
・MRI:T1WI子宮筋層と等信号から低信号、T2WI子宮筋層と等信号からやや高信号を示す。
腫瘤内部に血管の拡張によるflow void や造影によるtumor stain がみられる場合があるがこれらの所見に乏しい症例も存在する。
このような画像所見は侵入奇胎や絨毛癌でもみられ、術前に画像所見のみで鑑別することは困難である。
Abulafia O, et al. Am J Obstet Gynecol 170 : 750─752, 1993
Sumi Y, et al. Radiat Med 17 : 427─30, 1999
Shanbhogue AK, et al. Radiol Clin N Am 51 (2013) 1023–1034
Shaaban AM, et al. RadioGraphics 2017; 37:681–700
分娩後に高hCGが持続する疾患
・(臨床的)侵入奇胎
・(臨床的)絨毛癌
・胎盤トロホブラスト腫瘍 PSTT
・類上皮性トロホブラスト腫瘍 ETT
*胎盤ポリープretained products of conception(RPOC)
Shaaban AM, et al. RadioGraphics 2017
結語 |
・分娩後高hCGを示す子宮腫瘍の1例を提示した。
・(妊娠に関連する)子宮内に多血性腫瘤を認めた場合、奇胎/絨毛癌、PSTT、ETT、胎盤ポリープの鑑別がある。
・画像での絨毛性腫瘤の鑑別は困難とは思われるが、奇胎/絨毛癌、PSTT/ETTの治療方針は異なるため、臨床経過、画像所見、hCG値から類推・示唆することは重要と思われる。
参考文献