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第 392 回 東京レントゲンカンファレンス[2019年5月23日]

症例6 40歳代 男性:上腹部痛
大網裂孔ヘルニア
transomental hernia

 

 画像所見のまとめ

・左上腹部にbeak signを伴う拡張腸管があるが網嚢(胃と膵の間にある空間)には拡張腸管は存在しない。
・Sack like appearanceは明らかではない(→異常裂孔ヘルニア疑い)。
・Beak signを伴う小腸は一方では横行結腸より前方に連続している。
・前方に脱出している腸管構造物の近傍の血管の連続性を確認すると、胃大網静脈であることが確認できる。

 

 鑑別診断 内ヘルニア

・腹膜窩ヘルニア(=ヘルニア内容が後腹膜腔へ入り込む)と異常裂孔ヘルニア(=裂孔を通じて異なる腔に入り込む)に分類される。
・腹膜窩ヘルニア:傍十二指腸ヘルニア、Winslow(網嚢)孔ヘルニア、S状結腸間膜ヘルニア、盲腸周囲ヘルニア
・異常裂孔ヘルニア:腸間膜裂孔ヘルニア、大網裂孔ヘルニア、子宮広間膜ヘルニア

Sack like appearanceがないことから異常裂孔ヘルニアが鑑別に挙がる。
・腸間膜裂孔ヘルニア:横行結腸間膜の裂孔であれば網嚢に脱出した腸管があるはず。
・大網裂孔ヘルニア:否定する要素はない。しかも胃大網静脈がヘルニア門疑い領域の近傍まであることから診断できる。
・子宮広間膜ヘルニア:遠い。

 

 内ヘルニア

・定義:体腔内の異常に大きい窩や孔の中に臓器が入ること
・腹膜窩ヘルニア(=ヘルニア内容が後腹膜腔へ入り込む)と異常裂孔ヘルニア(=裂孔を通じて異なる腔に入り込む)に分類される。
・腹膜窩ヘルニア:傍十二指腸ヘルニア、Winslow(網嚢)孔ヘルニア、S状結腸間膜ヘルニア、盲腸周囲ヘルニア
・異常裂孔ヘルニア:腸間膜裂孔ヘルニア、大網裂孔ヘルニア、子宮広間膜ヘルニア

 

 大網裂孔ヘルニア

・男女比=114:89
・発症年齢:4-95歳(平均年齢56.2歳)
・内ヘルニアの1-4%
・89%に開腹歴がない
・要因:先天的形成異常や外傷による裂孔の形成、加齢に伴う結合組織の萎縮、急激なるい痩、ステロイド服用による後天的要素。

分類
・A型:腹腔→大網→腹腔
・B型:腹腔→網嚢→腹腔
・C型:腹腔→網嚢→
  C0:網嚢内
  C1:Winslow孔→腹腔
  C2:小網→腹腔

 

 結語

・内ヘルニアは絞扼により腸管虚血を起こすことがあり、鑑別に挙げることが重要である。
・以前は特異的な所見がなく診断は難しいとされてきたが、近年は大網裂孔ヘルニアの診断においてのCTの有用性の報告が増えている。
・開腹歴のないイレウス症例で特に結腸の外側や前方に拡張した小腸を認める場合は特にtype Aの大網裂孔ヘルニアを鑑別に挙げ、
 胃大網静脈との連続性を確認する必要がある。

 


参考文献

  • Nobuyuki Takeyama CT of Internal Hernias. Radiographics 2005:997-1015.
  • Satoshi Doishita Internal Hernias in the Era of Multidetector CT:Correlation of Imaging and Surgical Findings. Radiographics 2016:88-106.
  • 宇高徹総 大網裂孔ヘルニアの臨床的検討 日本腹部救急医学会誌 2017:543-548.