第 396 回 東京レントゲンカンファレンス[2019年11月28日]
症例2 20歳代 男性:検診胸異常陰影部 |
びまん性肺リンパ管腫症 diffuse pulmonary lymphangiomatosis |
鑑別診断 |
・サルコイドーシス
・リンパ増殖性疾患
・リンパ管腫症
びまん性肺リンパ管腫症(DPL) |
【概念】
・リンパ管の増殖と拡張を特徴とする、まれな疾患。
・肺内、縦隔、胸膜のリンパ管がびまん性に障害され、リンパ路に沿って複雑に吻合する拡張リンパ管が浸潤性、進行性に増生する。
【臨床】
・年齢:小児〜青年期(ホルモン状態など内的因子により、出生直後ではなく遅発性に発症)
・性差:なし
・症状:喘鳴、呼吸困難、血痰、胸水など。無症状なことも多い。
・診断:臨床所見と画像、気管支鏡検査、病理学的検査など包括的なアプローチが必要。
※十分な病理検体採取の困難さのため(広範な肺病変により開胸手術が困難、リンパ管の二次的な異常増殖・閉塞を来す可能性など)
・病理:CD31、第VIII因子関連抗原、D2-40などの内皮マーカー陽性
【画像所見】
<胸部単純X線写真>
・両肺にびまん性に広がる肥厚した間質影(Kerley B line)
・縦隔影の拡大
・胸水貯溜
<CT>
・上葉優位の小葉間隔壁や気管支血管束の平滑な肥厚
・縦隔の低吸収、乏血性、既存構造を圧排しない腫瘤
・肺門側にも分布する不均一なすりガラス影やconsolidation
・胸膜肥厚、胸水(多くは乳糜胸水)、肥厚した心膜、心嚢水貯留
→リンパ管拡張、逆行性リンパ流、リンパ液の漏出、浮腫を反映
<リンパ管造影後のCTの有用性についての報告>
・直接リンパ管造影で通常は肺間質、胸壁、縦隔および心膜に分布しない。これらに分布する場合はリンパ管の異常である。
・DPLでは肺や縦隔の病変内にリピオドール集積を認める。
・直接リンパ管造影後のCTは、胸腔内のリンパ管の拡張と増殖を明確にするため、DPLの診断・評価に非常に適している。
【鑑別診断】(肺の間質を主体に侵し、同時に縦隔病変を伴うもの)
・サルコイドーシス:縦隔・肺門病変はリンパ節腫大である。DPLのびまん性腫脹とは異なる。
・悪性リンパ腫:縦隔病変が比較的高吸収である。既存構造への圧排効果が見られる。
・カポジ肉腫:増強効果あり。リンパ節腫大を伴う。HIV陽性。多臓器病変が見られる。
・Multicentric castleman disease:増強効果あり。腫瘤内の樹枝状石灰化が見られる(15%)。
臨床症状(発熱、けん怠感、高ガンマグロブリン血症、CRP高値など)。
【臨床】
・治療:外科的切除、放射線治療、ステロイド、インターフェロン、抗癌剤など用いられるが、有効な治療法は確立されていない。
※近年ではプロプラノロール、シロリムス、ベバシズマブなどによる治療は、毒性が少なく再発性胸水およびリンパ増殖を減少させると提唱されているが、報告も少なく、一定の見解は得られていない。
・予後:不良(進行性の呼吸困難、呼吸不全など)
Kadakia KC, et al. Can Respir J 2013;20(1):52-54.
Take Home Message |
・若年で縦隔〜肺門の低吸収な軟部影、両肺間質に広がる陰影を見た場合はびまん性肺リンパ管腫症(DPL)を鑑別の一つとして考える。
・診断には直接リンパ管造影が有用である。
参考文献