第 398 回 東京レントゲンカンファレンス[2022年11月24日]
症例3 30歳代 男性:頭痛 |
嗅神経鞘腫 olfactory schwannoma |
鑑別診断 |
前頭蓋底部の骨や脳を圧排性に変形させる境界明瞭なextra-axial massで、MRIで不均一な信号・Ring状造影効果を呈し、血管造影で一部に腫瘍濃染を認めた。鑑別診断として以下を考えた。
・Meningioma
・Schwannoma
・Olfactory Ensheathing Cell Tumor
・Solitary Fibrous Tumor
・Olfactory Neuroblastoma
・何らかのlow gradeな肉腫
Schwannoma |
・Schwannomaは末梢神経のシュワン細胞から発生する良性腫瘍。
WHO2021脳腫瘍分類でCNS WHO grade 1。悪性化は非常に稀。
・脳神経での発生頻度はCN. VIII(9割) >> CN. V > CNs. IX-XI > CN. XII。(CN. V以下の頻度順は文献により諸説あり)
Osborn’s Brain, 2nd ed. p.710
【Schwannomaの一般的画像所見】
CT:低〜等吸収。骨を圧排性に変形させる。石灰化は稀。
MRI:T1WIで皮質と等信号、T2WIで不均一な高信号。
通常造影効果あり、Ring状造影効果も多い。嚢胞性変化も多い。
粗大な出血は少ないが、小出血は高頻度で認める。
FDG-PET:高集積〜低集積まで様々。(SUVmax = 5.4 ± 2.7 程度との報告あり)
血管造影:典型的にはhypovascular tumor。
Osborn’s Brain, 2nd ed.
Clin Nucl Med . 2021 Apr 1;46(4):289-296.
Surg Neurol . 2002 Feb;57(2):105-12.
Olfactory Schwannoma |
・Olfactory Schwannomaは過去70例程度の報告がある。
Surg J 2018;4:e164–e166.
・嗅神経(CN. I)と視神経(CN. II)は末梢神経ではなく中枢神経であり、シュワン細胞は存在しないはずで、理論的にはSchwannomaは発生しないはずである。
・Olfactory schwannomaの発生起源は複数の説がある。
1.CNS内の異所性シュワン細胞を由来とする説
mesenchymal pial cellのシュワン細胞への分化や、神経堤細胞のCNSへのmigrationを由来とする説
2.嗅神経近傍組織のシュワン細胞を由来とする説
血管周囲神経叢、三叉神経硬膜枝、前篩骨神経、などのシュワン細胞由来という説
J Neurosci Rural Pract . 2018 Apr-Jun;9(2):258-263
Skull Base. 2011 Jan; 21(1): 31–36.
3.Terminal Nerve (Cranial Nerve 0)からの発生説
Histopathology. 2020 Jan; 76(2): 275–282.
Olfactory Ensheathing Cell Tumor |
・嗅神経を覆うGliaであるOlfactory Ensheathing Cellから腫瘍が発生するとされ、Olfactory Ensheathing Cell Tumor (OECT)と呼ばれる。
・画像所見・病理所見はともにSchwannomaに酷似するとされる。
・WHO2021脳腫瘍分類に記載はなく、疾患概念として現段階では確立されていないと考えられる。
Cancer Cell Int . 2019 Oct 11;19:260.
・過去の文献(11例程度)ではLeu-7(CD57)免疫染色陰性であることをOECTの診断根拠としているものが支配的である。(Schwannomaは通常陽性となる)
Oncol Lett . 2015 May;9(5):2078-2084.
・しかし、20-25%程度のSchwannomaはLeu-7陰性であるという報告あり。
→これのみでのOECTとSchwannomaの鑑別は困難な可能性が高い
Arch Pathol Lab Med . 1988 Feb;112(2):155-60.
Cancer Cell Int . 2019 Oct 11;19:260.
・近年はSchwann/2EやSOX10陽性をもってLeu-7陰性Schwannomaと診断した報告もある。
Neuropathology . 2020 Aug;40(4):373-378.
SchwannomaのVascularity |
・Schwannomaは典型的には血管造影でHypovascularとされる。
・しばしば、Hypervascularなものがある。
722例の聴神経鞘腫中36例(5%程度)が血管造影でhypervascularであったと報告あり。A-V shuntも15例で伴っていた
Teranishi, et, al. Oper Neurosurg. 2018 Sep 1;15(3):251-261.
・前頭蓋底のHypervascular Schwannomaの報告はある。
Yamahata, et, al. Skull Base Rep. 2011 May; 1(1): 59–64.
結語 |
・前頭蓋底の造影効果が不均一な腫瘤の鑑別にSchwannoma、Olfactory Ensheathing Cell Tumor(OECT)がある。
・Schwannomaは非多血性な事が多いが、ときに多血性の場合もありうる。
・SchwannomaとOECTは画像所見、病理所見ともに酷似するとされ、2022年の現段階では病理学的にも一定の見解に乏しく断定的な区別は困難な可能性がある。(OECTはWHO2021脳腫瘍分類における記載はなく、疾患概念として未確立と考えられる)
参考文献