第 401 回 東京レントゲンカンファレンス[2023年5月25日]
| 症例5 50歳代 男性:しゃべりづらさ | 
| 抗MOG 抗体関連疾患
         MOG antibody - associated disease  | 
      
| 鑑別疾患 | 
・視放線 → NMO?
      ・ open ring sign → MS?
      ・それ以外の炎症性脱髄性疾患 → 抗MOG抗体関連疾患?
血清/髄液中の抗MOG抗体陽性が判明
      → 抗MOG抗体関連疾患におけるtumefactive demyelinating lesionと診断
| tumefactive demyelinating lesion(TDL) | 
・多発性硬化症などの脱髄疾患の頭部MRIで認める所見
      ・直径2cm以上、mass effect、リング状造影効果を呈し、脳腫瘍の様に見える= tumefactive demyelinating lesion
      ・鑑別:他のリング状増強効果を呈する疾患(膠芽腫や悪性リンパ腫)
      ・リングが途切れている(= open-ring sign)ことが特徴。
      C H Suh et al. AJNR Am J Neuroradiol. 2018 Sep;39(9):1643-1649    
| 抗MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease) | 
・MOGADは、中枢神経系の炎症性脱髄疾患の一つである。
          ・髄鞘構成蛋白の一つMOG に対する自己抗体(MOG 抗体)を有し、視神経炎、脊髄炎、視神経脊髄炎、ADEM、脳幹脳炎、
           大脳皮質脳炎など多彩な症状を呈する疾患群を含んだ概念である。自己免疫的な機序が病態に関与していると考えられている。
          多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023
| ・血清抗MOG抗体高力価陽性かつ中核的臨床事象(A)(①視神経炎、②脊髄炎、③ADEM、④単巣性ないし多巣性病変による脳症状、 ⑤脳幹ないし小脳による脳症状、⑥けいれん発作をしばしば伴う大脳皮質性脳炎)を1項目。 ・低力価陽性or髄液のみ陽性の場合、(A)に加え支持的臨床画像的特徴(以下)を1項目以上。  | 
        
| 視神経炎 | 両側同時に発症する視神経炎 | 
| 長大な視神経炎(視神経全長の半分以上を占める) | |
| 視神経周囲鞘の造影効果 | |
| 視神経乳頭浮腫 | |
| 脊髄炎 | 長大な脊髄病変 | 
| 中心性の脊髄病変(H字徴候) | |
| 脊髄円錐部病変 | |
| 脳・脳幹症候群 | 多発性の境界不明瞭な T2高信号病変 (テント上・テント下白質) | 
| 深部灰白質病変 | |
| 境界不明瞭なT2高信号病変(橋・中小脳脚・延髄) | |
| 皮質病変(髄膜造影効果を局所性・高度に認める場合あり) | 
・高感度かつ特異的なMOG 抗体検出法の開発に伴い、
                 最近になってMOGADの疾患概念が確立された(2023年1月に国際的診断基準が発表)。
                ・MOGADは、欧米の報告では成人中枢神経脱髄疾患の1.2~6.5%。
                 視神経炎は経過の中で80%に認め、両側性に障害されることは40%程度。 Romain Marignier et al. Lancet Neurol. 2021 Sep;20(9):762-772・病変の分布は、脳室周囲、脳梁、大脳深部白質、皮質下/傍皮質、視床、基底核、大脳脚、脳幹、小脳など。
                 白質病変ではADEM様のパターンやTDLなど。
                Marc Denève et al. J Neuroradiol. 2019 Sep;46(5):312-318・小児例では炎症性脱髄性疾患全体の30~40%で、ADEMの表現型を取りやすい。
                 成人例では全体の約5%程度であり、NMOとして発症することが多い。
              高井 良樹ら, 神経治療学. 2022 39(3):282-288
          
| 結語 | 
・頭部MRIにおいて一見脳腫瘍のように見える病変でも、
       造影効果の分布やmass effectの程度に注目し、脱髄疾患などの非腫瘍性病変の可能性を考えること。
      ・抗MOG抗体関連疾患は他の脱髄疾患の画像所見とオーバーラップする点が多く、診断には画像以外の臨床所見を考慮する必要がある。
参考文献