ゴーハム病
Gorham-Stout Disease |
リンパ管奇形の治療経過中に発症した右大腿部痛と骨病変 |
その後の経過
・硬化療法施行部の病変は縮小したが、右大腿部の疼痛は増悪傾向にあった。
・画像上も約半年の経過で溶骨性病変の拡大が見られた。
硬化療法後(X年10月) | 疼痛増悪時(X +1年5月) | |
右大腿骨近位部、腸骨稜、寛骨の透亮像に増大を認める |
骨内に既知のリンパ管奇形と類似したSTIR高信号域を認める |
・臨床的にある疾患が疑われ、確定診断や悪性腫瘍の除外目的に生検が施行された。
右腸骨と右大腿病変部より生検
病理所見(一部抜粋):
スリット状に不整に拡張したリンパ管や小型筋性血管が混在しながら増殖する像をみる。免疫組織化学的にD2-40陽性を示す。
D2-40:Lymphatic endothelial markerと呼ばれリンパ管と血管の鑑別やリンパ管内皮に由来する腫瘍の鑑別に有用とされる。
診断は・・・ゴーハム病(Gorham-Stout Disease)
ゴーハム病(Gorham-Stout Disease) |
・リンパ管奇形による局所的な骨組織の進行性溶解を特徴とする、極めてまれで治療方法が確立されていない難治性の疾患。
溶解した部位はリンパ管組織に置換する。
・小児、若年者に多く発症。原因不明。遺伝性なし。
・International Society of Studying Vascular Anomaly(ISSVA)の中ではリンパ管奇形に属している。
リンパ管腫症/ゴーハム病診断基準 |
下記(1)のa)〜c)のうち一つ以上の主要所見を満たし、(2)の病理所見を認めた場合に診断とする。病理検査が困難な症例は、a)〜c)のうち一つ以上の主要所見を満たし、臨床的に除外疾患を全て否定できる場合に限り、診断可能とする。
(1)主要所見
a)骨皮質もしくは髄質が局在性もしくは散在性に溶解(全身骨に起こりうる)。
b)肺、縦隔、心臓など胸腔内臓器にびまん性にリンパ管腫様病変、又はリンパ液貯留。
c)肝臓、脾臓など腹腔内臓器にびまん性にリンパ管腫様病変、又は腹腔内にリンパ液貯留。
(2)病理学的所見
組織学的には、リンパ管内皮によって裏打ちされた不規則に拡張したリンパ管組織よりなり、一部に紡錘形細胞の集簇を認めることがある。
腫瘍性の増殖は認めない。
特記事項
・除外疾患:リンパ脈管筋腫症などの他のリンパ管疾患や悪性新生物による溶骨性疾患、遺伝性先端骨溶解症、特発性多中心性溶骨性腎症、遺伝性溶骨症候群などの先天性骨溶解疾患(皮膚、皮下軟部組織、脾臓単独のリンパ管腫症は、医療費助成の対象としない。)。
・リンパ管奇形(リンパ管腫)が明らかに多発もしくは浸潤拡大傾向を示す場合には、リンパ管腫症と診断する。
リンパ管腫症 | ゴーハム病 | |
定義 | 中枢神経系を除く全身の臓器に拡張したリンパ管組織が浸潤 | 全身の骨が進行性に溶解しリンパ管組織に置換 |
症状 | 乳糜胸水、心嚢水、縦隔腫瘤、腹水、脾臓病変(多発リンパ嚢胞)、消化管出血、リンパ浮腫、骨溶解に起因する病的骨折など。 浸潤部位に応じて症状は多彩。 |
病的骨折、四肢短縮、側弯の他、溶骨部位の周辺臓器の症状が出現。 局所のリンパ浮腫、リンパ漏、肋骨や胸椎の溶解により胸水など内臓病変を合併。 |
鑑別 | 多発性 髄質の溶骨性変化 嚢胞性 経時的変化は緩徐 |
骨皮質の菲薄化、先細り、消失 進行性 浸潤性 |
Take home message |
若年者に原因不明の溶骨性病変を認め、特に既往にリンパ管奇形がある場合はゴーハム病を鑑別に挙げる
参考文献
|