第 404 回 東京レントゲンカンファレンス[2023年10月26日]
症例6 20歳代 男性:発熱、意識障害、痙攣 |
デング熱 dengue fever |
鑑別 |
デング脳炎
・ベトナムから入国、発熱、意識障害、発疹、血小板低下など臨床所見が典型的
日本脳炎
・初回のMRI撮影時点では有力な鑑別となる
・出血の頻度は低い
単純ヘルペス脳炎
・側頭葉内側や島の病変が典型的
急性散在性脳脊髄炎
・小児に好発
・(本国での経過は不明だが)急性期を脱した後の発症が多い
考察① デング熱について |
・フラビウイルス科のRNAウイルスであるデングウイルスによる感染症
・ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介される
症状
・発熱、発疹、頭痛、筋肉痛、関節痛など
・4-10日の潜伏期間を経て、40℃近い高熱が2-7日続く
・多くは無症状もしくは軽症
・激しい腹痛や頻呼吸、意識障害、痙攣、出血傾向、血漿漏出、多臓器不全などを来した場合、
重症型デング熱と診断される
考察② デング脳炎/脳症について |
・デングウイルスにはDENV1-4の4つの血清型が存在する
・DENV2-3は神経向性(neurotropic)である
・デングウイルスは脳炎として中枢神経に直接感染するほか、
脳症やGuillain-Barre症候群として感染後の免疫異常による神経障害を来す
・デング脳炎の発生率は5.0%(27/540例 *北インドからの報告)
・症状は頭痛、てんかん発作、意識障害など
・意識障害を伴う中枢神経合併症は重症型デング熱の診断項目の1つ
考察③ デング脳炎の画像所見 |
・視床や基底核、脳弓、大脳皮質〜皮質下白質、脳室周囲白質、脳幹、小脳などに拡散制限を伴うT2WI/FLAIR高信号域を生じる
・SWIやT2*WIで病変内の出血が検出される(8/12例)
・斑状の造影増強効果を伴う(4/12例)
・両側視床に病変を認めた症例が複数報告されている
・“double-doughnut” signと呼ばれる
考察④ デング熱の流行 |
・デング熱は南米、東南アジア、アフリカなどの熱帯〜亜熱帯地域で流行
・2023年8月現在の感染者数は下表を参照
・マレーシア(71,193例)、ラオス(16,413例)、カンボジア(11,824例)でも2022年以上のペースで感染者が増加
・ベトナムでは昨年より遅いペースの流行ながらも感染者は57,698例
・日本における直近12ヶ月の輸入デング熱推定感染地域はベトナムが最多(30/123例)
2023年1-8月 | 2022年 | |
ブラジル ペルー ボリビア アルゼンチン バングラデシュ |
2,569,746 235,014 137,110 121,424 69,483 |
2,363,490 72,851 16,544 750 62,382 |
結語 |
・発熱、意識障害、痙攣を発症し、脳炎を伴う重症型デング熱と診断された一例を経験した
・近年、各国でデング熱が流行し患者数が増加している
・検査前確率を適切に推定することが求められる画像診断においては、疫学情報をcatch upすることが重要である
参考文献