卵巣甲状腺腫 struma ovarii |
画像 |
ポイント@:充実部 | |
T2強調像/造影T1強調像/造影CT | |
・T2強調像で不均一低信号、よく染まる ・早期濃染し、明らかな拡散異常は認めない |
○充実部 |
ポイントA:嚢胞成分 | |
T2強調像/造影T1強調像/造影CT | |
➡ | 嚢胞@T2強調像で低信号、T1強調像で中等度〜高信号、CT値90HU前後 |
➡ | 嚢胞AT2強調像で中等度〜高信号、T1強調像低信号 |
ポイントB(造影CT) |
Cor/Ax |
ポイントB(T1強調像) |
T1 in phase/T1 opposed phase |
ポイントB:わずかな脂肪成分 |
T1 in phase/T1 opposed phase 造影CT |
画像所見まとめ |
●全体像:左付属器領域に25mm×33mm×29mm程度の
分葉状腫瘤
●多房性嚢胞と充実部が混在
・充実部:早期から濃染、T2WI不均一低信号、明らかな拡散異常なし
・嚢胞成分:T2WIで低信号〜高信号、T2強調像
●脂肪成分あり
経過
X年5月に開腹左付属器切除術施行。
【術中所見】
・左卵巣腫瘍4cm大、左卵管正常、右付属器正常、子宮正常
・腹腔内淡血性の少量腹水あり、洗浄細胞診採取(⇒細胞診ClassII)
肉眼所見 |
HE染色(×20倍) | HE染色(×100倍) | |
異型の乏しい濾胞上皮細胞が小型の濾胞、乳頭状、腺腔様構造に増生して密集(充実成分) | コロイド様物質を有する大型の濾胞(嚢胞成分) | |
HE染色(×100倍) |
診断 卵巣甲状腺腫(5%未満程度の奇形腫成分を含む)
卵巣甲状腺腫 struma ovarii |
【疫学・予後】
・単胚葉性奇形腫の一つで大部分(50%以上)が甲状腺組織からなる
・卵巣奇形腫全体の約2.7%、全卵巣腫瘍の0.3%程度
・性成熟期に好発し、好発年齢は30歳−50歳
・50-60%に成熟嚢胞性奇形腫を合併
・ほとんどは良性で悪性頻度は5-10%
【病理学的特徴】
・多く(約94%)は片側性で直径10p以下
・種々の程度の嚢胞性変化を示し、嚢胞内は甲状腺コロイド含有濾胞で構成される
【症状】
・下腹部腫瘤や腹痛が多いが、無症状で偶発発見例も多い
・甲状腺機能亢進症(約5%)、腹水貯留(1/3程度)
【画像所見】
・全体の形状は分葉状、境界明瞭
・多房性嚢胞が多いが(約90%)単房性の症例もある
CT➡高吸収(80HU以上)(甲状腺濾胞内容物のヨードによるX線減衰効果や出血を反映)
MRI➡甲状腺コロイドの濃度を反映して多彩な信号強度を示し(ステンドグラス腫瘍)、濃度が高いほどT1WI高信号/T2WI低信号
・中等度〜高度造影効果を示す厚い隔壁、充実部を伴うことが多い
CT➡隔壁や嚢胞壁に沿う石灰化が比較的高頻度(60%程度)
MRI➡T2WI低信号の充実部にADCの著明な低下はない
・成熟嚢胞性奇形腫の合併を示唆する脂肪成分
充実成分を含む多房性嚢胞性病変の鑑別 |
充実部のT2WI | 充実部の造影効果 | 充実部の拡散制限 | 嚢胞内の信号変化 | |
卵巣甲状腺腫 | 低信号 | 早期濃染 | 弱い | 多彩 |
成熟奇形腫の悪性転化 | 低信号 | 早期濃染 | 強い | 脂肪成分+水成分 |
粘液性癌 | 淡い高信号 | 不均一な増強効果 | 強い | 多彩 |
顆粒膜細胞腫(成人型) | 低信号 | 早期濃染 | 強い | 水成分+血性成分 |
転移性卵巣腫瘍 | 低信号 | 早期濃染 | 強い | 水成分 |
ブレンナー腫瘍 | 低信号~中等度 | 軽度〜中等度 | 弱い | 多彩(合併する粘液性腫瘍として) |
カルチノイド腫瘍 | 低信号 | 早期濃染 | 強い | 多彩 |
まとめ |
・付属器領域によく染まる充実部分を伴う多房性嚢胞性腫瘤を認めたら、充実部の拡散制限の有無、嚢胞内の信号変化に注目する
・鑑別疾患によっては単純CTも考慮する
参考文献
|