強皮症に続発した慢性偽性腸閉塞症 intestinal pseudoobstruction secondary to systemic sclerosis |
【現病歴】
X-2年より、泥状便、軟便が出現。下部消化管内視鏡を受け、過敏性腸症候群の診断を受けていた。
以降二年間で腸捻転/イレウス疑いで複数回の入院歴あり。X年、腹部膨満、腹痛、嘔吐が出現し、入院となった。
画像 |
入院4ヶ月前の腹部造影CT 入院4ヶ月前のCTでも消化管拡張、小腸ガスが見られる。 |
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小腸〜大腸の拡張がみられるが、明らかな閉塞機転は指摘できない。 小腸ケルクリングひだ同士の間は狭い |
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→イレウス/腸閉塞疑いで入院を繰り返していたという病歴合わせ、偽イレウス(慢性偽性腸閉塞症)のような病態が疑われる。 |
入院時腹部造影CT肺野条件/入院時腹部造影CT /入院4ヶ月前造影CT |
入院時腹部造影CT肺野条件
両肺底部にすりガラス影、網状影が見られる。左肺底部の網状影の中には軽微な気管支拡張も見られる
入院時腹部造影CT
いずれも食道の拡張が見られる
慢性偽性腸閉塞症 |
・機械的な閉塞機転が無いのにもかかわらず腸閉塞状態が長期にわたり持続する
・特発性(筋性、神経性、先天性、後天性、家族性と存在)
日本には1000人程度
・続発性:以下の原疾患に続発する
膠原病(全身性強皮症、PM/DM、SLE、MCTDなど)
神経疾患(筋ジストロフィー、PD、NF1、ミトコンドリア脳筋症など)
内分泌疾患(甲状腺機能低下症、尿毒症、ポルフィリン症など)
薬剤性(抗うつ薬、オピオイドなど)
・6ヶ月以上前からの腸閉塞状態と腹部膨満、閉塞を伴わない腸閉塞で診断される
・イレウス症状のほか、慢性的な低栄養、Bacterial Translocationが問題となる
・治療は栄養療法、腸管減圧、手術
・本例に於いては、食道拡張、間質性肺炎の初見が見られ、全身性強皮症の可能性を報告した
・血液検査、皮膚生検が施行され、特異抗体不明の全身性強皮症(萎縮期)の診断となった
診断:全身性強皮症に合併した慢性偽性腸閉塞症
X+3年 大腸全摘出術後/X+3年 |
X+3年 大腸全摘出術後
引き続き小腸拡張がみられる
X+3年
肺底部の繊維化所見は経時的に進行
・全身性強皮症は萎縮期であり、保存的加療が選択された
・以降も腸閉塞や菌血症による入院を繰り返し、大腸全摘術を施行された
・現在はIVHによる栄養療法中である
・消化管病変の病理は、固有筋層の萎縮と膠原線維への置換であり、蠕動障害と拡張が引き起こされる
・食道、十二指腸、空腸の拡張の頻度が高い
・消化管拡張の割にKerckring 襞が密集するのが特徴的であり、hidebound sign と呼ばれる
hidebound 【形】 〈軽蔑的〉〔考え方などが〕時代遅れの、偏狭な 〔家畜が〕骨と皮だけの、皮がカサカサに
カロリ病、先天性肝線維症との関連は? |
・いずれも胎生期の胆管形成期に形成されるductal plateの形成不全が原因と考えられる、同一スペクトラムの疾患とされている
・現状で強皮症との合併例の報告はされていない
・(TGFの関与など)線維化のメカニズムに共通点はみられる
Take Home Messages |
・繰り替えす閉塞起点のない腸閉塞様所見を見た場合、慢性偽性腸閉塞症を鑑別に挙げる
・続発性慢性偽性腸閉塞症の原因は多岐にわたる
膠原病、神経疾患、内分泌疾患、薬剤性・・・
・Subtleな食道拡張、間質性肺炎でも強皮症を疑う端緒になる
・ケルクリングひだの集簇像は強皮症の特徴とされる
参考文献
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