症例6:30歳代 女性

最終診断
腹壁子宮内膜症


摘出標本:40×45×28mmの軟部組織からなる腹壁腫瘤で、割面は黄褐色調。腹直筋の腹側に存在していた。
病理診断:腫瘤はdenseなfibrous tissueから成り、筋膜へ浸潤していた。endometrial stromal cellと拡張したendometrial glandを豊富に有する子宮内膜組織である。周囲には強い線維化を認める。
 

腹壁子宮内膜症
頻度 子宮内膜症の約2% 1) 
   皮膚子宮内膜症の一部に分類。
   腹壁発生例は全例が手術瘢痕から。
    子宮切開術   1.08% 2)  
    帝王切開術  0.03 3) -0.45 4)%。
   自然発生例

本邦63症例のまとめ 泉ら5)  
発症年齢
20歳未満   1例 (1.6%)
20〜29歳  13例(20.6%)
30〜39歳  42例(66.7%)
40〜49歳   6例 (9.5%)
50〜59歳   1例 (1.6%)

腹壁内膜症における既往術式
 既往術式     症例数
 帝王切開     50例(79%)
 卵巣腫瘍摘出術   3例(4.8%)
 卵管結札術     2例(3.2%)
 虫垂切除術     1例(1.6%)
 胃切除術      1例(1.6%)
 その他       6例(9.5%)
  (腹腔鏡トラカール創、羊水穿刺の穿刺経路)

腹壁子宮内膜症における既往手術から治療までの期間
 2年未満     16例(26.2%)
 3年未満      6例(9.8%)
 4年未満      6例(9.8%)
 5年未満     16例(26.2%)
 5年以上     17例(27.9%)

発生機序 手術操作による子宮内膜の機械的移植説が有力 6), 7)。
症状   手術瘢痕部の硬い腫瘤。
     月経時の腫脹、疼痛、血性分泌など。
     典型的症状をきたすのは約半数7)から80%8)。
生化学所見 CA125が上昇する例もあり。

画像所見 T1、T2強調画像ともに低信号で、T2強調画像では腫瘤内の点状高信号域9)。
     造影効果あり。
治療法  外科的切除、GnRHaを用いた内分泌療法。

参考文献

  1. Masson JC : Trans West Surg Ass 53: 35, 1945
  2. Catterrjee SK : Scar endometriosis : a clinicopathologic study of 17 cases Obset Gynecol 56 : 81-84, 1980
  3. Thoman J. Zuber: Ceasarean Section Scar Endometoriosis. JABFP. 6. 505-506. 1993
  4. Liang CC. et al: Scar Endometriosis. Int Surg. 83. 69-71. 1998
  5. 泉 徳子 他: 帝王切開術後に発生した腹壁子宮内膜症の1例 臨産婦 57(9)1229-1233 2003
  6. 丹羽由紀子 他: 婦人科手術瘢痕に生じた腹壁子宮内膜症の2症例 陶生医報第19号 25-29 2002
  7. 渋井庸子 他: 腹壁腫瘤として開腹術に至った子宮内膜症の2例 臨産婦 58(12) 1454-1457 2004
  8. 柿崎大 他: 子宮内膜症ー腺筋症とその他の子宮内膜症 臨床画像16 
  9. 益雪浩一 他:帝王切開後の腹壁瘢痕に生じた子宮内膜症 西日皮膚 57 278-280 1995
  10. Gordon C et al: Case report MR imaging of endometriosis arising in ceasarean section scar. J Comput Assist Tomogr 13(1) 150-152 1989
 
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moderator : 木村 知、 嶋田守男、 林 三進


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