例4 50歳代 男性
胸水細胞診 淡黄色、混濁(+)、比重1.039、好酸球6%と増多 PR3-ANCA(proteinase-3 ANCA) 134EU↑
また、問診によりこの2ヶ月間に2度の鼻出血があったことが確認された。
そしてTBLBにて組織を採取し、確定診断となった。
診断
Wegener’s granulomatosis

 Wegener肉芽腫症は、1939年にドイツの病理学者Wegenerにより初めて報告された壊死性肉芽腫による上気道と呼吸器系の病変と壊死性糸球体腎炎を特徴とする疾患である。30-50歳代の中年層に多く発症し、男女差は見られない。
 その後、Carringtonらは、上気道、肺のみに病変を呈し、腎の症状を欠くWegener肉芽腫症を限局型として、全身型と区別した。

診断基準として

主要症状
 a.上気道(E)症状:鼻出血、鞍鼻、眼痛、中耳炎、口腔咽頭痛
 b.肺(L)症状:血痰、咳嗽、呼吸困難
 c.腎(K)症状:血尿、蛋白尿、腎不全、浮腫、高血圧
 d.血管炎症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6kg以上/6M)
 紫斑、多関節炎、多発性神経炎、虚血性心疾患、消化管出血、胸膜炎

主要組織所見
 a.E,L,Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
 b.免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
 c.小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎

主要検査所見
 proteinaseー3(PR-3)ANCA陽性

判定
a. E、L、Kそれぞれ一臓器症状を含め主要症状の3項目以上を示す例
b. E、L、K 、血管炎の主要症状いずれか2項目以上、かつ組織所見1項目以上を示す例
c. E、L、K 、血管炎の主要症状1項目以上、組織所見1項目以上、かつPR-3ANCA陽性例

画像所見
 Wegener肉芽腫症の胸部画像所見として多発する結節・腫瘤や浸潤影、空洞形成は単純写真の所見としてもよく認識されており、高頻度に認められるものである。
 またCTでは結節・腫瘤にair bronchogram, feeding vessel signなどの付随的所見が見られることもあり、胸膜に接した楔状の形態を呈することも多い。肺胞出血や capilaritisによるすりガラス様陰影、気管支壁の肥厚、リンパ節腫大などもCTにより明らかになってきた所見である。胸水や無気肺を呈することもあり、Wegener肉芽腫症のCT所見は非常に多彩である。
 本症の鑑別診断としては多発結節・腫瘤をきたす疾患が重要で次のものが挙げられる。
1.腫瘍性:肺癌、細気管支肺胞上皮癌、悪性リンパ腫、血行性肺転移
2.感染症:結核、真菌症、肺化膿症、肺炎、敗血症性血栓
3.その他:サルコイドーシス、BOOP、リンパ増殖性疾患、肺梗塞
 このうち空洞形成をきたすものとして、肺癌、結核、真菌症、肺化膿症が、浸潤性主体の病変として細気管支肺胞上皮癌、肺炎などがある。 feeding vessel signに注目すると血行性肺転移、敗血症性塞栓、肺梗塞との鑑別となる。このように多くの疾患が鑑別の対象になるが、結節、空洞形成及び浸潤影が存在しそれらが気道血管中心性に見られた場合は、非特異的ではあるがWegener肉芽腫症の可能性を考え、臨床症状や PR-3ANCA値、病理組織所見などと合わせて総合的に判断することが重要である。

治療・予後
 治療について、かつては致死率の高い病気であったが、サイクロフォスファマイドやプレドニンといった免疫抑制剤によって予後は大いに改善された。
 Wegener肉芽腫症の病期について、GrossらはWegener肉芽腫症の患者の約1/3に、経過中致命的とならない、上気道、下気道病変のある時期が数ヶ月から数年続き、その後致命的となる下気道・腎病変を起こしうるという二つの病期の存在を指摘している。血中PR3-ANCA値も限局型の場合はその陽性率・力価共に低く、全身型へ移行するに従いその陽性率・力価が上昇することが報告されている。厚生省の治療方針についても、全身型と限局型とで免疫抑制剤の使用量を区別し、過剰な免疫抑制による感染症や骨髄抑制を避けるためにも、限局型での投与量を減らしている。
 このように、Wegener肉芽腫症は早期発見早期治療により予後の改善を見込める疾患であるため、非特異的な画像所見ではあるが、その可能性を担当医に示唆することは重要であると考えられた。

現在外来にて経過観察中

PR-3ANCA 36EU


4ヵ月後 胸部単純X線 立位正面像


来院時 胸部単純X線 立位正面像

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Moderator : 山田 丈士