第312回 東京レントゲンカンファレンス
2009年4月23日

症例6 60歳代 男性

 

    肝結核
  tuberculosis of liver(and soft tissue)

 

所見のまとめ

CT
  肝臓外側区〜前腹壁に占拠性病変
不定形分葉状で壁の厚い嚢胞様構造 比較的境界は明瞭
内容は水濃度よりやや高い
特徴的な吸収値は指摘できず
壁構造に造影効果 充実成分は明確でない
腹壁と肝の病変は一カ所で連続し、腹壁ではあまり拡がりはない
肝内胆管拡張 門脈閉塞と向肝性側副路形成 原因?
脾腫
     
MRI    
  病変はT1WIにて低信号、T2WIでは辺縁が低信号で、内部が高信号から低信号。
 特に肝内に内部のT2が短縮した結節様構造がみられる。
拡散強調像は高信号。
     
初診時腹部超音波    
  病変は低エコー
後方エコーの変化は乏しい
特徴的といえる所見はない
     
血管撮影
・病変は乏血性で、特徴的所見に欠ける
・門脈塞栓が見られる。

 

入院後経過
・前医のCT,MRIにて肝内胆管細胞癌が疑われ、手術目的にて当院消化器外科を受診した。
・翌年2月に開腹生検術を施行。肝臓から腹壁に及ぶ腫瘍からは膿汁が流出した。
 外側区に見られた堅い結節を切除した。切除された結節に割を入れたところ、乾酪壊死様の内容であった。

術中所見
  ・右卵巣に20x10x8cmの充実性腫瘍を認め、これを切除。
・淡血性の腹水が認められた。

肉眼標本
 
膿瘍部   腫瘤部

病理所見
・腹壁に6x3cmの膿瘍形成が認められる。
・肝臓には大型の乾酪壊死性結節を生じている。
・肝臓及び腹壁膿瘍は、乾酪壊死を伴った類上皮細胞性の肉芽腫形成と、
  その周囲の急性慢性の滲出性炎症性病変によって形成されている。
・腹壁は多発性の右葉形成性の急性滲出性病変が中心で、横紋筋より腹側には乾酪壊死性の肉芽腫形成が多発している。
・悪性腫瘍は認めない。

 
 

病理診断
Liver and abdominal wall
 1) Epithelioid granuloma with caseous necrosis consistent with tuberculosis of liver
 2) Abscess formation, abdominal wall

肝結核
分類 (Levine 1990)
 ・miliary tuberculosis:最多。粟粒結核の80%に肝病変
 ・pulmonary Tbc with hepatic involvement
 ・primary liver Tbc:多発小結節となる
 ・focal tuberculoma or abscess:数cmの結節は極めて稀
 ・tuberculous cholangioma
孤立性肝結核は稀で、免疫不全を基礎としない原発性肝結核は特に稀。
日本やフィリピンなどの東アジア、南アフリカからの報告が多い。HIV感染とあいまって報告は増えつつある。
症状としては発熱や上腹部痛や発熱だが、無症状例も多い。
臨床化学検査ではALPの上昇があるが、AST/ALT正常例が約半数を占める。ツ反は強陽性、陽性、陰性とも同率。
抗結核薬四剤併用療法により数ヶ月で改善することが多い。早期に治療されれば予後良好だが、未治療では死亡率50%。

肝結核の診断
非侵襲的な診断は難しく、90%以上が開腹を要する。
 ・針生検でも診断は可能だが、感度は低い(2/23)。
            Oliva A et al. The nodular form of local hepatic tuberculosis. A review. J Clin Gastroenterol. 1990 Apr;12(2):166-7
            西ら 膵癌に合併した孤立性肝結核の一切除例. 日消外会誌28:855-858,1995
組織診断は、特徴的な乾酪性肉芽腫性壊死でなされる。
 ・しかし肝結核で乾酪壊死を認める頻度は高くない。
            Klatsikin et al. Hepatic granulomata: problems in interpretation. Acta Hepatol Jpn 18:379-387,1977
 ・乾酪壊死がない場合、sarcoidosisとの鑑別が難しい。
 ・好酸染色、培養ともに感度が低く(0〜45%, 約10%)、診断を難しくしている(粟粒結核は60%が培養陽性)。
抗酸菌が証明されずとも、結核の多い地域では肝結核を否定するべきではない。

肝結核の画像診断
画像所見に特徴的なものはない。
 乾酪壊死(無いことも)、肉芽腫、線維化、石灰化が病期により様々に混在するため、所見は一定しない。
 転移性腫瘍、胆管癌、肝細胞癌などとの鑑別が問題。
超音波では、文献的には2パターンがあるとされる。
 1)小結節の癒合により形作られる、明確な壁をもたない低エコー病変
 2)結核性膿瘍に関連した、高エコーのrimをもつ低エコー病変
CTでは類円形の低吸収域として描出される。
 辺縁の肉芽腫組織に軽度の造影効果があり、乾酪壊死巣がない場合は均一な造影効果が見られるとされる。
 治癒過程の時期により変化し、石灰化が見られる。
腫瘤を形成する孤立性肝結核腫のMRIの報告は、これまで10件ほど。
T1WIでは基本的に低信号だが、
 一部に高信号を含むもの、辺縁が低または高信号を示すものなどが報告され所見は一定しない。
 造影効果は辺縁に見られる。
T2WIでは高信号が5例、低信号が2例とこれも一定しない。
 液状壊死した転移と鑑別ができない。
 本例の乾酪壊死巣はT2WIで低信号を示しており、これが特徴的であったと言えるかもしれない。
血管造影では、shuntが見られない点がHCCと異なる。

本例の問題点
本例は組織学的に乾酪壊死、類上皮性肉芽腫を認めたことから、肝結核腫と診断した。
 しかし抗酸菌は証明されておらず(組織、培養とも)、陽性率が60%程度とされるPCRも陰性であった。
抗結核薬による速やかな治癒があれば、臨床的に診断が確定されるが、本例はいまひとつ反応が遅かった。
入院時にコントロール不良な糖尿病があり(BS200-300)、免疫能が低下していたとが考えられる。
精査するも肺病変は認めず、稀な孤立性肝結核腫と考えざるを得ない。
腹壁膿瘍の合併は報告がなく、結核を疑う所見といえない。

門脈閉塞は一元的に説明すべきか
Macronodular hepatic tuberculosis associated with portal vein thrombosis and portal hypertension
                                              (Kawamori.Y et al. AJR 2005)
 ・肝結核で門脈圧亢進を伴う例が、少なくとも4例報告されている。
   広汎な多発肉芽腫によりsinusoidが閉塞したり、リンパ節腫大で門脈が圧排されることによるもの。
 ・macronodular tuberculomaで門脈圧亢進を伴う例はないが、門脈血栓症の合併は報告がある。
本例も一元的に説明できる可能性はあるが、肝門リンパ節腫大や腸管結核を疑う所見は見られない。

まとめ
肝結核は稀な病態だが、流行地域である本邦では鑑別に加えるべき。
疑う根拠としては、結核の既往、胸腹部の症状があり、
 肺結核やリンパ節炎を示唆する二次的所見がある場合などだが、画像で確定することは難しい。
しかし超音波から肝結核を疑い、針生検のみで診断を確定できている報告も見られる。



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Moderator: 古橋 哲