血管肉腫 |
【右大腿骨単純写真】
・軟部組織の濃度が網目状であり浮腫をみていると考えられる。
・正面像で大腿部内側の表面に隆起性の病変を認める。
・骨に異常所見はみられない。
【大腿部MRI】
・大腿部内側の皮膚面から皮下脂肪織にかけ境界比較的明瞭な腫瘤を認める。
内部は比較的均一で、筋肉と比較しT1WIで等、T2WIでやや高信号を呈している。
・腫瘤は造影早期から強い染まりを呈し、後期相まで濃染は持続しており、多血性の腫瘤であることがわかる。
・横断像と冠状断で腫瘤は皮下脂肪織内に限局しており、深部への浸潤は認めない。
【切除検体】 |
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・中央部表層に出血潰瘍を伴った病変を認める。 |
【病理標本】 |
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異型の高度な紡錘形ないし類円形の腫瘍細胞の密な増殖を認める。 |
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腫瘍細胞による不整な血管腔の形成を認める。 |
【経過】 |
・広範囲切除術を施行し断端はnegativeであったが、2週間後には術部より遠位8か所に再発が出現。 |
【Stewart-Treves Syndrome】
1948年にStewart & Trevesが乳癌根治術後に慢性リンパ浮腫をきたした上肢に発生したlymphangio-sarcomaの6例を報告したことに始まる疾患であり、近年では慢性リンパ浮腫に生じた脈管肉腫の総称として用いられている。
【血管内皮由来?リンパ管由来?】
従来リンパ管由来とされていたが、近年血管内皮細胞によって産生される血液凝固因子のひとつ第VIII因子に対する関連抗原のほか、CD34などの血管内細胞由来の特異的マーカーが検索され、腫瘍細胞が血管内皮由来であるとする報告が多く見受けられる。血中腫瘍マーカーとして第[因子関連抗原、トロンボモジュリン、エンドセリン1がある。
【疫学】
・術後から発症までの期間は平均12年
・リンパ節郭清含む癌根治術後5年以上生存した患者の0.45%。子宮癌術後の発生報告は本邦では28例
・乳癌をはじめ、子宮癌術後の他、悪性疾患以外にも脳出血後の麻痺側、外傷や象皮症などによるリンパ浮腫に発生した症例も報告されている。
【原因】
➀ 慢性リンパ浮腫
・最大の原因。リンパ本幹の閉塞と側副路の増生により真皮、皮下組織でリンパ管が拡張・増生し、病変局所で血管内皮細胞の増殖と遊走因子の過剰発現がおきている可能性が考えられている。
・リンパ浮腫の部位で接触アレルギー感作成立の低下が報告されており、免疫能の低下により悪性化した内皮細胞を認識排除する反応が減弱していることも原因の一つと考えられている。
➁ 全身性発癌因子の存在
・本症の約20%に悪性腫瘍の合併を認めている。
➂ 放射線照射
・本症発生例に高い既往(80%)がみとめられ、増強因子の一つと考えられている。
【症状】
・不明瞭な赤褐色紅斑・水疱で初発
・増大し隆起性病変を形成
・易出血性であり、潰瘍を形成し大出血することがある
【画像所見】
皮下の多血性腫瘤であるほかは
・US:echogenic
・CT:筋肉と等吸収
・MRI:T1WIで等信号 T2WIで等〜高信号
と非特異的
【多血性軟部腫瘍の鑑別疾患】
浅在性腫瘍
・Hemangioma
・Angiosarcoma
・Kaposi sarcoma
・gloms tumor
深在性腫瘍
・Hemangiopericytoma
・Alveolar soft part sarcoma
などがあげられるが、慢性リンパ浮腫に発生する浅在性の多血性腫瘍としてAngiosarcomaが考えられる。
【予後】
・腫瘍は皮下に広がり、筋間に浸潤することはまれ
・血行性転移(肺、胸膜、胸壁、骨、肝)が主
・肺転移が死亡の直接原因になることが多い
・平均生存期間は11か月と極めて予後不良
【治療】
・可及的早期の患肢切断・広範囲拡大切除が第一選択となる
・不十分な切除では高頻度で再発する
・初期病変が限局していてもリンパ浮腫のある患肢全体に既に腫瘍細胞が存在する可能性が考えられており、切除による組織損傷に伴い修復過程で生じた増殖因子が腫瘍細胞増殖に寄与すると推測されている
・他に免疫療法(IL-2)やタキソイド系抗癌剤などがある
早期発見・早期治療が予後を左右する!!
・リンパ浮腫が存在する患者では本症を念頭におく
・腫張した患肢周囲に紅斑を伴う紅色腫瘤が生じたら、本症の可能性を考えることが重要であると考える
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