ニューモシスチス肺炎 Pneumocystis jiroveci pneumonia |
画像所見のまとめ
【CT】
・両肺全体に壁の厚い嚢胞/空洞性変化を多発性に認める。
・分布はランダムだが、やや上葉優位。
・下肺野優位に結節影も散見される。
・胸水なし。縦隔や肺門リンパ節腫脹なし。
追加検査 | |
・HIV抗原 | 陽性 |
・CD4 Lym | 1.8 cells/μl |
・β-D-glucan | 1090 pg/mL(基準値 <20) |
・喀痰Pneumocystis jiroveci PCR | 陽性 |
(その他感染症) | (腫瘍マーカー) |
|||
CMV抗原 | 弱陽性 | CEA |
<0.5 ng/mL | |
カンジダ抗原 | 陰性 | SCC |
1.1 ng/mL | |
クリプトコッカス抗原 | 陰性 | TPA | <30 U/mL | |
アスペルギルス抗原 | 陰性 | |||
喀痰抗酸菌培養 | 陰性 | |||
結核IFNγ | 陰性 | |||
PCT | <0.1 ng/mL | |||
臨床経過
喀痰からのPneumocystisの検出はなかったものの、
PCR陽性であったこと、他の病原体の感染を示唆する所見がなかったことおよび臨床像から、
ニューモシスチス肺炎として加療された。治療開始後β-D-glucanは経時的に減少し、陰影も改善を認めた。
治療開始から1ヶ月後 |
治療開始から3ヶ月後 |
|
Pneumocystis jiroveci pneumonia
【概念】
・以前は原虫と考えられていたPneumocystis carini は、現在は真菌の一種とされ、正式にはPneumocystis jiroveci と呼ばれる。
・免疫不全者の肺病変として発生し、HIV/AIDSの指標疾患として最も頻度が高い。
・非AIDS症例(悪性腫瘍、臓器移植後、膠原病治療中など)にも発症するが、その臨床像や画像所見はAIDS症例と異なるとされている。
AIDS-PCP vs non AIDS-PCP(臨床像)
AIDS-PCP |
non AIDS-PCP |
|
症状の進行 |
緩徐(2w-2m) |
急激(1w前後で重篤化) |
呼吸障害 |
軽度 |
重篤 |
炎症反応 |
軽度 |
高値 |
β-D-glucan |
高値 |
低値(AIDS症例の1/10程度) |
菌量 |
多い |
少ない |
予後(死亡率) |
10-20% |
35-50% |
● Pneumocystisそれ自体には組織障害性は少なく、過剰な免疫反応が肺障害を引き起こし、
ニューモシスチス症の病態を悪化させると考えられている。
画像所見
・びまん性、両側性、対称性のGGAが典型像とされる。
・嚢胞形成や限局的な浸潤影、結節影、部分的な線状影や網状影がみられることもあり、
嚢胞形成はAIDS症例に比較的特徴的とされる。
嚢胞形成
⇒ AIDS-PCPの20-35%に認められる。
⇒ 大きさ、形状、壁の厚さはさまざま。
⇒ 通常は両側性、多発性。上葉優位との報告もある。
⇒ 組織壊死やチェックバルブにより生じるとされるが、治療によりほぼ消失することもある。
⇒ 末梢にできた場合は気胸の原因になる。
鑑別(多発性に空洞・嚢胞性変化をきたす疾患) | |
【感染症】 |
【その他】 |
【腫瘍性病変】 |
まとめ
● AIDS患者で肺に嚢胞性病変をみた場合はニューモシスチス肺炎を考慮すべきだが・・・
●HIV感染が判明する前に、CTが撮影されることも充分にあり得るため、基礎疾患がないとされている患者でも、両側性多発性の嚢胞を認める場合にはAIDSによるニューモシスチス肺炎を鑑別にあげる必要があると思われれる。
参考文献
○ 荒川 浩明 他: ニューモシスチス肺炎とウィルス肺炎. 画像診断 29: 281-291, 2009
○ 川上 聡 他: ニューモシスチス肺炎とサイトメガロウィルス肺炎. 画像診断 30: 426-433, 2010
○ 藤井 毅: AIDSにおけるニューモシスチス肺炎. 日本胸部臨床 69: 103-111
○ 徳田 均: 非AIDS症例におけるニューモシスチス肺炎. 日本胸部臨床 69: 112-123
○ Tasaka S. et al.: Comparison of Clinical and Radiological Features of Pneumocystis Pneumonia Between Malignancy Cases and Acquired Immunodeficiency Syndrome Cases. Internal Med 49: 273-281
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