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第328回東京レントゲンカンファレンス
2011年5月26日
症例3 30歳代 女性
   

フォンヒッペルリンドウ病
von Hippel-Lindau disease


頭部造影CT (提示キー画像)
 
・小脳半球に嚢胞性腫瘤
 
・小脳実質内に多数の造影効果のある結節

 

MR所見のまとめ
・小脳半球に嚢胞性腫瘤
  −造影効果のある壁在結節

・小脳実質内に多発結節
  −拡散低下なし
  −造影効果あり
  −周囲に浮腫性変化
  −出血なし
 
成人後頭蓋窩腫瘍の鑑別疾患  
・多発性腫瘍
  −転移性脳腫瘍
  −血管芽腫(von Hippel-Lindau病)
  −悪性リンパ腫
・嚢胞性腫瘍
  −血管芽腫(von Hippel-Lindau病)
  −毛様細胞性星細胞腫
  −転移性脳腫瘍

 

 

腹部造影CT(提示キー画像)
・膵臓全体に多発する嚢胞構造
・びまん性の膵腫大 主膵管拡張なし
・胆道系拡張なし
・腹部に悪性腫瘍なし
・多嚢胞性腎の所見なし

 

腹部画像のまとめと鑑別疾患

・膵多発嚢胞
  −充実性病変なし
 −拡散低下なし
 −石灰化・出血なし
・胆道・主膵管拡張なし

【鑑別疾患】
・von Hippel-Lindau病
・Polycystic disease
・嚢胞性線維症

 

British Journal of Radioloy 2000 73; 83-86


診断:VHL関連びまん性漿液性嚢胞腺腫

【経過】
・頭蓋内圧亢進症状と意識障害増悪
・減圧目的に緊急腫瘍摘出術が施行
・病理組織診断
 −血管芽腫(hemangioblastoma)
・遺伝子診断
 −VHL遺伝子exon 1に点変異

最終診断:von Hippel-Lindau病

頭部単純CT冠状断

 

Von Hipple-Lindau病
・特徴
 −1/36000(80%が家族性)
 −常染色体優性遺伝
 −全身に腫瘍性病変多発
 −多血症が有用

・病態
 −癌抑制遺伝子VHL点変異もしくは欠失→遺伝子解析
【腫瘍性病変】
・中枢神経血管芽腫
・膵漿液性嚢胞腺腫

・膵内分泌腫瘍
・網膜血管腫
・腎淡明細胞癌
・内リンパ嚢胞腺腫
・褐色細胞腫
・精巣上体嚢胞腺腫
84%
77%


70%
69%
14%
40%
55%
N Engl J Med. 2003;349:419-421

von Hippel-Lindau病の臨床診断
[散発例]
・2つ以上の網膜もしくは中枢神経血管芽腫
・1つの網膜もしくは中枢神経血管芽腫+腎嚢胞、膵嚢胞、膵内分泌腫瘍、腎癌、褐色細胞腫、
 内リンパ嚢胞腺腫、精巣上体嚢胞腺腫のいずれか

[家族内発生例]
・網膜血管腫、中枢神経血管芽腫、褐色細胞腫、多発性膵嚢胞、精巣上体嚢胞腺腫、多発性腎嚢胞、60歳以下

Probl Urol 1990; 4: 312, National Library of Medicine, NIH

 

中枢神経血管芽腫

・毛細血管が豊富な良性腫瘍
・VHL病患者の84%に存在
・血管芽腫の15%がVHL病に起因
・症状
 −頭蓋内圧亢進、出血
・好発部位
 −小脳、脊髄、脳幹

散発性
・単発性
・40-50歳
・小脳(84%)が多い

VHL関連
・多発性
・20-30歳
・脊髄(50%)が多い
 −小脳40%
 −脳幹10%

 

 

びまん性嚢胞腺腫
・VHL関連の膵嚢胞は体部から尾部に数個から数十程度
・Diffuse serous cystadenomaとしての報告は15例
・その多くがVHL病との関連が示唆されている
・悪性腫瘍合併例が多い
 −非機能性内分泌腫瘍
   

Take home points
・多発する血管芽腫の存在はvon Hippel-Lindau病の存在を考える
・von Hippel-Lindau病の確定診断には、遺伝子診断(感度ほぼ100%)が有用である

 

VHL蛋白の細胞内シグナルカスケード・VHL正常(酸素存在下)
 −転写因子HIF-αに結合し分解

・VHL異常(低酸素状態)
 −HIF-αが分解されない
 −細胞増殖因子、エリスロポエチンを転写、翻訳
 −腫瘍形成、多血症

N Engl J Med. 2003;349:419-421

 

血管芽腫のMRI画像

・造影効果のある結節
 −小脳と脊髄
・T1強調画像
 −低信号から等信号
・T2強調画像
 −高信号
・鑑別疾患
 −転移性脳腫瘍
 −毛様細胞性星細胞腫

J neurosurgery 2003; 98:82

 

 

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Moderator:生田 修三