卵巣カルチノイド carcinoid tumor of the ovary |
画像所見 |
【CT】
・脂肪と石灰化を含む左右卵巣の嚢胞性腫瘤
・右卵巣腫瘤は強く濃染する充実部分を持つ
【MRI】
・子宮が年齢不相応に大きく、内膜・筋層の層構造が明瞭
・右卵巣腫瘤の充実部分はT2WIで低〜高信号が混在
・充実部分に強い造影増強効果
・充実部分は被膜構造に囲まれ、周囲との境界明瞭
術前診断 |
・右卵巣 顆粒膜細胞腫 および 成熟嚢胞性奇形腫
あるいは
・右卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化
↓
子宮・両側付属器切除術施行
病理組織診断 |
・右卵巣カルチノイド および 成熟嚢胞性奇形腫:Carcinoid tumor arising in the mature cystic teratoma of the right ovary
・左卵巣成熟嚢胞性奇形腫:Mature cystic teratoma of the left ovary
・子宮筋腫:Leiomyoma of the uterus
▼ 病理組織像 |
原発性卵巣カルチノイド |
・「単胚葉性および高度限定型奇形腫」のひとつ
・6〜8割は成熟嚢胞性奇形腫に合併
・カルチノイド全体の0.3〜0.5%
・閉経後女性に好発
・転移をきたすことは稀で予後良好
卵巣カルチノイドとホルモン産生 |
・セロトニン産生による典型的カルチノイド症候群は、組織型が島状(insular)のカルチノイドの約1/3に見られ本邦ではむしろ稀。
・組織型が索状(trabecular)/甲状腺腫性(strumal)の場合、Peptide YY※を産生し、頑固な便秘を呈することがある。
→ 本山らの提唱する「新カルチノイド症候群」
※ Peptide YY:腸から分泌される消化管ホルモン。腸蠕動や膵外分泌を抑制し、大腸での水吸収を促進する。
重要だった臨床情報 |
【現病歴】以前から頑固な便秘があった。近医で行われた経腹エコーで下腹部腫瘤を指摘され、紹介受診。
【内服薬】マグラックス錠 8T 2X,プルゼニド錠 4T 1X
↓
術後速やかに便秘は軽快
卵巣腫瘍とエストロゲン産生 |
・性索間質性腫瘍がエストロゲンを産生する以外に、表層上皮性・間質性腫瘍や転移性腫瘍など、あらゆる卵巣腫瘍がエストロゲン高値をきたしうる。腫瘍間質や卵巣間質からのエストロゲン産生によるとされる。カルチノイドでも報告あり。
原発性卵巣カルチノイドの画像所見 |
まとまった報告はないが
・濃染する充実性腫瘤
・成熟嚢胞性奇形腫に随伴する充実性壁在結節
・造影後早期から強い増強効果を示す
・MRI T2WIで低信号
・ADC低値
・スポンジ状を呈する例がある
などの特徴が挙げられている
卵巣カルチノイドの鑑別診断 |
・顆粒膜細胞腫
・莢膜細胞腫/線維腫
・転移性腫瘍(転移性カルチノイドを含む)
・他の単胚葉性奇形腫(卵巣甲状腺腫,神経性腫瘍)
・成熟嚢胞性奇形腫 および その悪性転化
・混合型胚細胞腫瘍
・Brenner腫瘍
・腺線維腫/嚢胞腺線維腫
・原発性卵巣癌
まとめ |
・成熟嚢胞性奇形腫に合併した卵巣カルチノイドの症例。
・ホルモンの影響を示す子宮の形態変化とエストロゲン高値の適切な解釈が難しかった。
・Peptide YY産生による頑固な便秘症状(=新カルチノイド症候群)の存在が鑑別診断を絞り込む手がかりとなりえた。
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