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第 342 回 東京レントゲンカンファレンス[2013年2月28日]
症例1 30歳代 女性
 : 涙が止まらない、言葉が上手く話せない、音楽が聞こえる、考えがまとまらない、忘れっぽい。
抗NMDA 受容体脳炎
anti NMDA receptor encephalitis

 

 鑑別診断

・ウイルス性脳炎
・非ヘルペス性辺縁系脳炎
・転移性脳腫瘍
・low-grade diffuse astrocytoma
・gliomatosis cerebri
・痙攣後脳症
・急性期脳梗塞
   など・・・

 

 抗NMDA受容体脳炎

・NMDA型グルタミン酸受容体に対する自己抗体が引き起こす自己免疫反応としての急性辺縁系脳炎である。
・病態は不明とされている。
現在最も有力な仮説では奇形腫神経組織上に発現している抗原が免疫応答を誘導し、抗体を産生させていると考えられている。
これらが何らかの感染を契機に免疫応答が促進され、髄内産生あるいは血液から移行した抗NMDA受容体抗体が共通抗原を有する海馬や前脳の神経細胞のNMDA受容体に結合し機能障害を生じるとされている。

・5徴
➀ 統合失調症様精神症状
➁ 痙攣発作
➂ 無反応・緊張病性昏迷状態
➃ 中枢性低換気
➄ 奇異な不随意運動

 

 抗NMDA受容体脳炎:100例の特徴

・若年女性に好発する(女性91例、男性9例、5〜76歳)
・非特異的前駆症状に引き続き、急速進行性に統合失調症様症状が出現する(76%)
・しばしば、痙攣発作を契機に緊張病性昏迷類似の状態に陥る(66%)、しばしば中枢性低換気となる(86%)
・意識障害がありながら、多彩な異常運動が持続する(69%)
・多彩な自律神経症状も随伴する
・MRI上、22%に側頭葉内側病変を認めるが、一般に軽微な変化に過ぎない
・脳波上、92%に異常
・卵巣奇形腫が高率に合併する(腫瘍合併率59%:女性62%、男性22%)
・緩徐に回復し、社会復帰可能になる
・腫瘍切除と免疫療法の併用が有効である(ただし、腫瘍未切除でも改善しえる)
・再発例もあり(15%)

[画像所見]
・MRIでは約半数程度で異常がみられ、辺縁系脳炎を示唆する海馬、側頭葉の異常信号を呈するのは20%程度に過ぎない。その他、大脳皮質、基底核、小脳、脳幹、脳梁などの異常信号もおこりうる。
・症状の重篤さに対して頭部画像所見が乏しい点が特徴である。
・急性期に両側側頭葉内側部にT2WIないしFLAIR画像で高信号域を認めたとする報告もあるが、大脳皮質、小脳、脳幹などにFLAIR画像で非特異的な異常信号が認められたとの報告もある。

 

 まとめ

・若い女性で、特徴的な症状が出現した場合、本症の可能性も疑い、骨盤内の検索を行うことが重要である。
・臨床所見に比して画像所見は軽微であることも本疾患を疑う一助となる。

 

参考文献
・Dalmau J, et al: Anti NMDA-receptor encephalitis : case series and analysis of the effects of antibodies, Lancet Neurol 2008;7:1091-1098
・飯塚ら:抗NMDA受容体抗体脳炎の臨床と病態:臨床神経 49:774-778,2009
・若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(AJFNHE)との関連・異同:亀井聡:臨床神経, 48:916-919,2008
・栗田ら:抗NMDA受容体脳炎の精神症状:Schizophrenia Frontier Vol.12 No.1 :44-46
・Dalmau J, et al.:Paraneoplastic anti-N-methyl-D-aspartate receptor encephalitis associated with ovarian teratoma. Ann Neurol 2007;61:25-36
・抗NMDA受容体脳炎:画像診断 Vol.30 No.2 2011:122-123
・神経内科疾患の画像診断 



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