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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第342回症例症例:呈示
第 342 回 東京レントゲンカンファレンス[2013年2月28日]
症例3 30歳代 女性
女性尿道腺癌
adenocarcinoma of the female urethra

 

 画像所見

【CT】 上段:単純  axi /下段:造影  axi
生検

【MRI】
上段:T1WI  axi /下段:T2WI  axi
生検

上段:T2WI  sagi /下段:T2WI  coro
生検

上段:DWI(b800)/ ADC /下段:Fs T1W1 +Gd  sagi
生検

 

 所見のまとめ

尿道領域を主座とし全周性に広がる、径45mm程の概ね境界明瞭な腫瘤性病変。

【CT】軟部濃度を呈し、腫瘍辺縁部主体に不均一な造影増強効果あり。

【MRI】
・T1WIにて骨格筋とほぼ等信号を示す。
・T2WIにて淡い高信号を主体とし、高信号と低信号域を内包した不均一な性状を呈する。辺縁は筋層を示唆する低信号帯で囲まれ、内部には尿道と思われる一部連続性の確認できるドット状の低信号域を横断像にて認める。
・拡散強調像にて強い高信号を示す。
・造影矢状断像やT2WI横断像にて、膣前壁との境界が一部不明瞭。

【その他の関連する所見】
・腹部傍大動脈領域,両側外腸骨動脈領域・閉鎖領域・鼠径部に多発リンパ節転移あり(+左鎖骨上かリンパ節転移の可能性)。
・左外腸骨動脈領域の転移リンパ節による左水腎水尿管症.
・少量腹水。

 

【診断】尿管憩室腺癌 膣壁浸潤 多発リンパ節転移

・膀胱鏡:尿道粘膜〜内腔に明らかな異常なし。
・膀胱頸部に乳頭状腫瘍あり
・経尿道的生検:CARCINOMA(大部分は壊死物質)
・経膣的生検:CARCINOMA(低分化腺癌 s/o)

 

 Skene腺→尿道憩室→腺癌

尿道癌:
閉経後の女性に好発する稀な悪性腫瘍。女性の全悪性腫瘍の0.02%程度を占める。組織型は扁平上皮癌(70%)、移行上皮癌(20%)、腺癌(10%)。前二者は尿道上皮から発生するため,比較的早期より排尿障害と血尿を来す。

尿道憩室内に発生する尿道癌:きわめて稀(女性の全尿道癌の5%)であり、腺癌が多い(60%)。

尿道憩室腺癌の発生メカニズム:
➀尿道背外側の筋層内層(縦走筋)には管状胞状構造を呈する傍尿道腺(Skene腺)が存在し、尿道遠位2/3への排泄機能を担っている。
➁女性の尿道憩室は後天性が多く、このSkene腺が感染、炎症、外傷などが原因で閉塞し、繰り返すことで嚢胞化や膿瘍化、尿道との穿通を来し、尿道の粘膜下を取り囲むように発生すると考えられている。
➂このSkene腺を発生母地とし、腺癌が生じる。特に明細胞腺癌の報告が多く、その組織像は卵巣の明細胞癌に類似する。

*故、腫瘍も粘膜下を主体に筋層を解離させるように、尿道を取り囲むような非常に特徴的な発育形態を示す。尿道粘膜〜内腔は比較的保たれ、進行するまで尿閉を来さない。

治療:根治的切除術(膀胱尿道全摘術)
憩室摘除術(+放射線照射)→再発時に根治術


 尿道憩室腺癌の画像所見

・正常な女性尿道は4cm程の長さであり、T2WI横断像にて明瞭なターゲット状の3層構造を呈する。中心の尿道が低信号のドット状、その周囲の粘膜下層が高信号、最外層は低信号の筋層により囲まれる。

・ 尿道憩室腺癌は中心部の尿道を保ちつつ,周囲を囲むように粘膜下に発育するため、腫瘤内を貫通する既存の尿道の同定が診断に有用。典型像として、T2WI横断像でのドット状の尿道、尿道を取り囲む粘膜下を主座とする腫瘤による厚みを帯びた高信号域,辺縁部を囲む筋層の低信号による、ターゲット状円形腫瘤像が特徴的所見。

・造影にて濃染、拡散強調像にて強い高信号を呈する。

・進行すると膣前壁を破壊し膣腔内に進展するため、臨床的に膣癌と紛らわしく、上記画像所見による鑑別が重要となる。

他,鑑別には尿道憩室そのものや、膣の嚢胞性病変などもあがるが、造影増強効果の有無や尿道の同定が有用な鑑別ポイントとなる。


 Take Home Message

‘尿道を取り囲むような’

この所見をみたら決まり!

尿道憩室・尿道憩室腺癌

 

参考文献
・Keyanoosh et al, AJR:190, January 2008
・Nakatsuka et al, CytoJournal 2012, 9:11画像診断 Vol.31 No.2 2011
・画像診断 Vol.31 No.2 2011 


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Moderator: 森 なお子