基底細胞母斑症候群(Basal Cell Nevus Syndrome ; BCNS) 母斑性基底細胞癌症候群 Gorlin-Goltz症候群 |
1.疾患概念 |
基底細胞母斑症候群はPTCH1遺伝子の異常により、基底細胞癌、顎骨嚢胞、骨格異常など、外胚葉、中胚葉に腫瘍ならびに奇形が多発性に生じる常染色体優性遺伝性疾患。
2.診断基準 |
明確な診断基準は確立されていなかったが、比較的新しいものとしては、1993年Evansら、1997年Kimonisらが細部の若干異なる新しい診断基準を提案している。
Evansらによる診断基準
(大症状2つ、あるいは大症状1つと小症状2つを満たす場合に確定)
大症状
1.3個以上、あるいは30歳未満の基底細胞癌または10歳以降の基底細胞母斑
2.顎骨の歯原性角化嚢胞(組織学的に証明)または多骨性骨嚢胞
3.3個以上の手掌、足底の小陥凹
4.異所性石灰化:大脳鎌の石灰化(層状または20歳未満)
5.家族歴
小症状
1.先天骨奇形:肋骨異常(二分、癒合、扁平、欠損)または椎骨奇形(二分、楔状、癒合)
2.大頭症(97パーセンタイル以上)、前頭突出
3.心臓腺線維腫または卵巣線維腫
4.髄芽腫
5.腸間膜リンパ節嚢腫
6.先天奇形:口唇裂/口蓋裂、多指症、眼球異常(白内障、眼球欠損、小眼球症)
3.疫学調査 |
・1993年 英国北西部での調査では罹患率は55,600人に1人
・1994年 豪州での調査では罹患率は164,000人に1人
・2009年〜2011年にかけて日本でも全国調査が施行され311例が集計された(235,800人に一人の割合)
4.臨床症状 |
1)基底細胞癌・基底細胞母斑
・日本では、BCNS患者における基底細胞癌の発現率は38%で海外と比較すると明らかに低い。
・髄芽腫や基底細胞癌に対する放射線療法の既往のある患者では、若年期より照射野に基底細胞癌が多発し、より浸潤傾向を示すことが多いとされており、放射線療法は原則禁忌である。
2)歯原性角化嚢胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍)
・以前は歯原性角化嚢胞の名称で嚢胞性疾患に分類されていたが、局所浸潤傾向が強く、摘出後の再発も多いため、2005年のWHO組織分類で良性腫瘍に分類された。
・日本でのBCNS患者における歯原性角化嚢胞の発現率は86%と高率である。
・日本では基底細胞癌の発現率が低いため、歯原性角化嚢胞を契機に口腔外科を受診しBCNSの診断を受ける例も多い。
3)手掌または足底の小陥凹
・日本でのBCNS患者での発現率は60%と報告されている。
・BCNSにおいて特異的な臨床症状であり、臨床診断に有用であるが、治療の必要はない。
4)大脳鎌の石灰化
・BCNS患者では高率で確認され、日本では79%と報告されている。
・非症候例において大脳鎌の石灰化がみられたのは5%のみで、明らかな有意差が認められた。
5)肋骨異常
・日本ではBCNS患者の約36.4%に認められたと報告されている。
・第3〜5肋骨に認められることが多い。
6)髄芽腫
・小脳虫部に発生する未分化のグリオーマで、小児期に最も高頻度にみられる悪性脳腫瘍。
・BCNS患者では孤発例と比較して初発年齢が低いとされる。
7)卵巣線維腫
・膠原繊維を産生する紡錘型の腫瘍細胞からなる充実性の良性卵巣腫瘍。
・受胎能には影響しないことが多く、悪性化の報告も少ない。
8)心臓線維腫
・まれな心臓腫瘍で、ほとんどは新生児期や小児期に認められる。
5.治療・予後 |
・根本的治療はなく基本的に対症的であり、症状に応じた治療を選択する。
・日光曝露とX線照射は、基底細胞癌のリスク因子となるためできるだけ避ける。
・合併する基底細胞癌、髄芽腫の治療が適切に行われていれば、生命予後は健常人と比べて大きな差はない。
参考文献
1)横林敏夫 他:母斑性基底細胞癌症候群. 小児口腔外科 2012; 22: 1-13.
2)錦織千佳子:母斑性基底細胞癌症候群. 日皮会誌 2010; 120: 1869-1874.
3)山本実佳 他:頭頸部のCT・MRI:解剖,撮像,診断 顎骨,顎関節 臨床画像 2004; 20: 686-705
戻る |