前腸嚢胞 foregut cyst |
画像所見 |
60歳代 男性
身長175cm,体重67kg
ECG : sinus 74/min
UCG : LVDd/Ds:49/34 EF:58%
AR2+ PHT:497
前壁中隔領域のmid〜apexにおいて壁運動が低下
左房に嚢胞性病変
冠動脈CT
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経食道US
左房内に約36×35mmの嚢胞性病変
内部は均一な無エコー
内部に血流信号なし
造影MRI |
鑑別診断 |
Radiology Review Manual では | |
Cardiac tumor | |
・Benign 1. Myxoma 2. Papillary fibroelastoma 3. Lipoma 4. Hydatid cyst ・Malignant |
・Congenital 1. Rhabdomyoma 2. Teratoma 3. Fibroma 4. Hemangioma と書いていますが・・ |
各画像を検討し、以下の鑑別をあげた
・気管支原性嚢胞 (前腸嚢胞): Bronchogenic cyst (Foregut cyst)
・非典型的な粘液腫
・Hydatid cyst
・Cystic atrioventricular node tumor
・Cystic hamartoma
・三心房心
・血液嚢腫
病理所見 |
・組織学的には嚢胞性病変で,嚢胞内腔には多列線毛上皮を認めます。 |
最終診断 前腸嚢胞 : Foregut cyst
前腸嚢胞(Foregut cyst) |
【概要】 | |
胎生4週ごろ内胚葉から分化した前腸より,呼吸器系と咽頭食道系に分離していく過程で生じる先天的な異常とされる。 | |
異所性分離 胎生早期 : 気管・気管支や食道の周囲に嚢胞形成 胎生後期 : 肺内に嚢胞形成 縦隔のすべての区分に生じうるが,気管分岐部周囲の中〜後縦隔が好発部位。 心嚢内の報告は稀。 胎生4〜5週までは左右の胸膜心膜ヒダが開いており、心臓と近接しているため、肺芽を形成する細胞が心嚢内に迷入する。 稀ながら悪性例の報告あり。 |
【画像所見
】
CT値 : -3〜97HU
気管支腺などの分泌液が貯留して形成される。
(通常の気管支腺の90%以上は水分で構成されているので,T1強調像で低信号を呈するが、被包化された状態が長く続くと水分が減少し、相対的に蛋白濃度が上昇するため、T1強調像で高信号になるとされる。)
蛋白濃度:
>9000mg/dLでT1高信号
>15000mg/dLでT2低信号
【病理診断】
嚢胞壁は気管支壁の構成成分(線毛円柱上皮,軟骨,気管支腺,平滑筋)を認める。
前腸細胞が迷入する時期で構成成分が異なるとされ、
・軟骨・気管支腺があるもの ⇒ 気管支原性嚢胞 ( Bronchogenic cyst )
・ 〃 がないもの ⇒ 前腸嚢胞 ( Foregut cyst )
【治療】
中隔に発生した場合,体動時の突然死や胸痛,不整脈,心不全死する危険性がある。
感染などを伴った際には治療が困難となるため,本症を疑う場合は嚢腫の全摘出が望ましいとされる。
参考文献
・添田 他: 心房中隔内に発生した巨大な気管支原性嚢胞の1例.日胸外会誌 44: 9, 97-102, 1996
・大野喜代志 他: 心嚢内気管支原性嚢腫の2手術例. 日胸外会誌 38: 4, 660-665, 1990
・野上宗伸: 「T1強調像で高信号」または「T2強調像で低信号」を示す病変 視点を変えて探る鑑別診断と読影のコツ・縦隔.臨床画像 26 (12): Page1332-1341. 2010
・Nakata H et al: Computed tomography of mediastinal bronchogenic cysts. J Comp Assis Tomogr 6: 733-738, 1982
・Sharad Sharma et al. Foregut cystic developmental malformation: new taxonomy and classification--unifying embryopathological concepts. Indian J Pathol Microbiol.. 2009; 52(4): 461-72.
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