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第 367 回 東京レントゲンカンファレンス[2016年4月28日]
症例6 40歳代 男性 : 頭痛
神経ベーチェット病
neuro-Behçet disease


 画像所見

頭部CTにおいて、左側脳室下角は描出されず、周囲脳実質の腫脹が示唆される。
頭部MRIにおいて、左側頭葉内側から中脳間脳移行部、橋左側にかけて、T2延長領域を認める。同部はDWIにて淡く高信号を示し、ADC mapで淡い高信号を呈する。造影剤投与後は同部に刷毛状の増強効果を認め、橋左側辺縁には髄膜増強効果も認める。
FDG-PET-CTでは、左側頭葉内側に大脳皮質よりも高いSUVmax 11.17の異常集積を認める。異常集積の範囲は、MRIでの異常所見の範囲よりも広く、左後頭葉内側まで認められる。

 

 鑑別疾患

・腫瘍性病変:悪性リンパ腫、神経膠腫
・神経Bechet病
・神経Sweet病
・神経サルコイドーシス
・腫瘤様多発性硬化症(Tumefactive multiple sclerosis)
・急性散在性脳脊髄炎
・辺縁系脳炎
・単純ヘルペス脳炎

 

 臨床診断:神経Bechet病

・精査したものの、本症例が診断のcriteriaを満たす疾患を同定できなかったが、
 検査結果、臨床経過からは本症例の所見を一元的に説明しうる疾患として神経Bechet病(NBD)を考える。
・Bechet病の国際診断基準に当てはまる所見もなく、診断に至ることは困難であるが、
 NBDの好発年齢に相当し、MRI所見は典型的とは言えないものの報告例と照らして矛盾はなく、
 発症形式も神経症状のみを呈する isolated-NBD とも考えられる。
・さらに、発症後約2年後の頭部MRIにおいて、発症時と比較して脳幹及び小脳の萎縮を認めている。
 慢性進行型神経Bechet病において、神経症状出現後1年後に見られる所見とされ(約25%)、
 本症例のように大脳萎縮の見られない場合には比較的神経Bechet病に特異的な所見とされるため、
 総合的に考えて神経Bechet病との診断で相違ないものと考えられる。
・その後の臨床経過では約10ヶ月の寛解期間をおいて脊髄病変にて再発している。
・PSL+MTXにより治療継続中
・発症後約4年の現在、右上肢不全麻痺、右小脳性運動失調、高次脳障害あり。

 

 神経Bechet病(NBD)

・Bechet病の約20-25%
・血管性病変:深部静脈血栓症、動脈血栓症
脳実質内病変(髄膜脳炎):脳幹、基底核に多い
・脳実質内のNBD
・急性型:発熱を伴った髄脳膜炎で発症、ステロイド有効、神経学的予後良好
慢性進行型:構音障害、歩行障害で発症、ステロイド抵抗性、神経学的予後不良
・10%程度に脊髄病変を伴う

・脳実質型NBD
 ・一側の中脳間脳移行部 } T2延長病変
 ・橋・延髄
 ・視床〜視床下部
 ・基底核/内包後脚
・急性期・亜急性期病変は増強効果を有する
・ADC値は上昇


 神経好中球病

神経Bechet病と神経Sweet病は類縁疾患であり、時に両者の鑑別は困難である。
・また、神経Bechet病と神経Sweet病のいずれも診断基準を満たさないが、
 好中球機能亢進を示す症例が存在することが知られている。
・このような症例に対し、近年は両疾患を包括して神経好中球病とする概念も提唱されている。
・本症例もこれに相当する可能性がある。


 Take Home Point

神経Bechet病では、辺縁系脳炎や glilomatosis cerebri など腫瘍性病変に類似した画像所見を呈する場合もある。中脳間脳移行部を侵し、下行線維路に沿って橋底部に伸びるT2延長病変を見た場合は鑑別に挙げることが大切である。

 



参考文献

  • Al-Araji, A. et al. Lancet Neurol, 2009; 8: 192-204
  • Wengert O. et al. Clin Neurol Neurosurg. 2012; 114: 721-724
  • Varoglu A.O. et al. AJNR. 2010 Jan: 31(1): E1
  • Hasegawa T. et al. Eur j Neurol. 2005 Aug; 12(8):661-2