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第 372 回 東京レントゲンカンファレンス[2016年11月24日]
症例4 30歳代 女性 : 意識障害
メタノール中毒
methanol intoxication


 鑑別診断

T2強調画像、拡散強調像で基底核に左右対称性の高信号を呈しうるもの

・低酸素脳症 → 大脳皮質、線条体
・低血糖脳症 → 基底核・海馬・大脳皮質
・深部脳静脈血栓症 → 視床・基底核
・Wilson病 → 被殻の外側縁・外包
・Creutzfeldt-Jakob病 → 線条体・大脳皮質

いずれも臨床経過から合致しない
・中毒は? → 各原因物質による。
『神経放射線診断 Update』秀潤社
『よくわかる脳MRI』秀潤社

疾患 原因物質 障害部位(特徴的な部位)
中毒性疾患  一酸化炭素  淡蒼球
 メタノール  被殻 視神経
 エチレングリコール  脳幹部
 トルエン  中小脳脚
 有機リン  線条体
 コカイン  淡蒼球、脳梁膨大部
薬剤性疾患  メトトレキセート  大脳深部白質
 メトロニダゾール  小脳歯状核
その他  スギヒラタケ  基底核(被殻、淡蒼球) 外包

『神経放射線診断 Update』 秀潤社
『新版 所見からせまる脳MRI』 秀潤社

 

 メタノール中毒

・燃料用アルコール、不凍液、工業用アルコールなどに含まれる。
・摂取後数時間以内に一過性酩酊状態となり、6〜12時間ほどで全身倦怠感・頭痛・嘔吐・腹痛・視野障害などが生じる。
・体内でホルムアルデヒド
  →ギ酸に代謝され、ミトコンドリア内でチトクロムオキシダーゼを阻害し細胞内低酸素や代謝性アシドーシスを引き起こす。
・100%メタノールで最小致死量は30-100ml、失明惹起量は4-10ml程度。個体差がある。
『神経放射線診断 Update』秀潤社
An J Kidney Dis ;68(1):161-167
日救急医会誌;2005;16:175-181

【画像所見】
・両側被殻の出血性壊死
・視神経及び皮質下白質に及ぶことがある
  —病理学的には乏突起膠細胞の脱髄性変化
  —被殻に特異的に障害が出る機序は不明
・CTで低吸収
・DWI・T2WIやFLAIRで高信号
J Comput Assist Tomogr 2006;30(5):742-44
J Park Med Assoc. 2012;62(10):1099-101
Ann Saudi Med. 2013;33(1):18-9

【疫学】
・第二次大戦終戦から1946年7月までの12ヶ月間に1575人が死亡し、109人が失明。
・平成11年食品衛生法にて中毒よりメタノールの項目削除。
・現在は日本では年30例程度の報告がある。
・2016年3月に夫に燃料用メタノールを飲ませた殺人事件があった。

【治療
・アルコール脱水素酵素の抑制
  —エタノールもしくはホメピゾールを投与し、メタノール代謝を抑制する。 
・透析
  —メタノール、ギ酸ともに除去可能。
  —メタノールの半減期54時間→2時間へ短縮。
日救急医会誌;2005;16:175-181
An J Kidney Dis ;68(1):161-167

 

 結語

・画像所見から診断に至ったメタノール中毒の1例を経験した。
・自殺企図や薬物接種歴など正直に言わないこともあり、画像所見から原因物質を推測しえることがある。

 

 


参考文献

  • Jeffrey A. Kraut,MD. Am J Kidney Dis. 2016;68(1):161-167
  • Muhammad Azeemuddin. J pak Med Assoc. 2012 Oct;62(10):1099-1101
  • S.Sefidbakht. Neuroradiology 2007. 49:427-435