上顎歯肉悪性黒色腫 malignant melanoma of the maxillary gingiva |
悪性黒色腫 |
・粘膜のメラノサイト ないし メラノサイト前駆細胞由来の上皮性悪性腫瘍
・非対称性で不整な辺縁を示す1)
・著明な色素沈着、青黒色から茶黒色、時に無色2)
口腔粘膜悪性黒色腫 |
・口腔粘膜は皮膚と同様に外胚葉由来,基底層にメラノサイトを含むことから3)悪性黒色腫を発生しうる
・頭頸部領域の粘膜悪性黒色腫は全悪性黒色腫中の1%強
–その約50%は口腔から発生2)
・口腔粘膜由来の悪性黒色腫は稀
–口腔悪性腫瘍の0.5%4)
・日本人に多い2)
・平均55歳(20-80歳)の成人2)
・男女比が3:15)という報告や男女差がないという報告6)
・病因となる因子は明らかでない
・発生部位としては口蓋および上顎歯肉が80%、他には下顎歯肉、頬粘膜、口腔底、舌2)
TMN分類でのT因子 |
・粘膜悪性黒色腫は悪性度が高く7)、頭頸部癌取扱い規約においてT1、T2病変の項目は省略,病変が存在した時点でT3病変以上
–本症例は顎骨浸潤の所見からはT4a病変相当8)
・(術前病理診断がない)術前診断としては上顎歯肉癌のも否定されず、その際は頭頸部癌取扱い規約および口腔癌取扱い規約では歯槽頂に限局する顎骨浸潤でありT2病変相当8,9)
・2017年1月から施行されたAJCC(American Joint Committee on Cancer)Cancer Staging System, 8th Editionでは頭頸部領域の粘膜悪性黒色腫のstagingに大きな変更はなく10)、現状の頭頸部癌取扱い規約と同様
頭頸部癌取扱い規約に基づく上気道消化管(頭頸部)の粘膜悪性黒色腫のT分類8) |
TX | 評価が不可能 |
T0 | 病変を認めない |
T3 |
上皮および/または粘膜下(粘膜病変)に限局する |
T4a | 軟部組織深部,軟骨,骨,または皮膚に浸潤する |
頭頸部癌取扱い規約に基づく口腔癌のT分類8) |
TX | 評価が不可能 |
T0 | 病変を認めない |
Tis |
上皮内癌 |
T1 | 最大径が2p以下 |
T2 | 最大径が2pをこえるが4p以下 |
T3 | 腫瘍が4pをこえる |
T4a | 皮質骨、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に浸潤 |
T4b | 咀嚼筋間隙、翼状突起ないし頭蓋底への浸潤、または内頸動脈を全周性に取り囲む病変 |
*歯肉を原発巣とし、骨および歯槽のみに表在性びらんを示す場合は T4a と評価しない |
口腔癌取扱い規約に基づく上顎歯肉癌のT分類9) |
TX | 評価が不可能 |
T0 | 病変を認めない |
Tis |
上皮内癌 |
T1 | 最大径が2p以下 |
T2 | 最大径が2pをこえるが4p以下 |
T3 | 腫瘍が4pをこえる |
T4a | 上顎洞および鼻腔への浸潤 頬隙あるいは皮下脂肪への浸潤 |
T4b | 咀嚼筋間隙への浸潤 翼状突起への浸潤 頭蓋底への浸潤 内頸動脈を全周性に取り囲む病変 |
*歯槽骨内に腫瘍が留まっている場合は腫瘍の大きさでT1,2,3と判定する |
悪性黒色腫のMRI画像所見 |
・T1強調像で高信号,T2強調像で低信号11)
–メラニンおよび出血性成分のフリーラジカルが影響
–出血性成分がメラニンより影響しているとの報告12)や出血性成分およびメラニンの影響13)との報告
→本症例では病理所見においては出血の所見なし
→本症例ではT1強調像での高信号所見はメラニンに依る変化であった
まとめ |
・本症例の様に術前に病理診断が確定していない場合、術前・治療前評価としての画像評価としては上顎歯肉癌および悪性黒色腫の各々のT分類を考慮する
・一般に悪性黒色腫のT1強調像での高信号はメラニン、出血性成分の影響が考慮されるが、今回の病変はメラニンに依る影響を考慮する
参考文献