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第 376 回 東京レントゲンカンファレンス[2017年5月25日]
症例2 60歳代 女性 : 頭髪の脱毛、腹痛を伴わない頻回の水溶性下痢、頸から下の全身のこむら返り
里吉病
Satoyoshi syndrome


 里吉病

・1963年 里吉らが報告
進行性の有痛性筋痙攣、脱毛、下痢が3徴
・3つそろうまでに10〜20年かかることも
・現在までの報告数:60数例

剖検例の病理所見(1978)
・消化管病変(胃、十二指腸、小腸、大腸)
 –大小不同の隆起性病変
 –深在性嚢胞
 –粘膜上皮の萎縮、脱落
 –粘膜固有層から粘膜下層の炎症細胞浸潤
"Gastroenterocolitis cystica polyposa"

(Cronkhite Canada synd.)
・非遺伝性
・下痢、脱毛、皮膚色素沈着、爪甲萎縮
・消化管ポリポーシス(過誤腫性ポリープ)

疫学
・18歳以下に多い(平均10.9歳)
・成人発症あり(11例)
・男女比 約1:2
・日本以外にヨーロッパ、アメリカ大陸などからも報告あり

症状
進行性の有痛性筋痙攣
 –激痛
 –1日数回〜数百回
 –下肢から上行性に進行
 –骨変形、骨折(特に小児)
下痢
 –1日数回〜10数回の水様便
 –止痢剤に反応しない
脱毛
 –全身に及ぶ

血液検査所見
・エストロゲン低下(月経異常:女性ほぼ全例
・耐糖能異常
・Hb低下
・蛋白低下
自己抗体陽性例の報告
 –抗アセチルコリン抗体
 –抗核抗体
・自己免疫疾患との合併例の報告
 –SLE
 –橋本病
自己免疫異常の関連が考えられている

治療
ダントロレンナトリウム(筋弛緩剤)
 –筋痙攣のほか、下痢にも有効
・グルコン酸カルシウム
・ステロイド製剤
・ガンマグロブリン製剤
・免疫抑制剤

・初期の10例は10年以内に死亡した
 –筋痙攣による呼吸不全
 –吸収不良による栄養障害
・近年は予後改善(早期発見、治療法の確立により)

 

 

 Take home messages

・里吉病:有痛性筋痙攣、脱毛、下痢を主症状
・消化管に多発する嚢胞性、隆起性病変
・有効な治療法がある(ダントロレン)


 

 


参考文献

  • Satoyoshi E: A syndrome of progressive muscle spasm, alopecia, and diarrhea. Neurology 28: 458-471, 1978.
  • 長浜孝: 著しい消化管病変を主徴とした里吉症候群の2例. 胃と腸 41:1683-1697,2006.
  • Ikeda K: Satoyoshi's syndrome in an adult:a review of the literature of adult onset cases. Internal Medicine 37:784-787, 1998
  • Asherson RA: A case of adult-onset Satoyoshi syndrome with gastric ulceration and eosinophilic enteritis. Nature clinical practice. Rheumatology 4:439-44, 2008.