卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化 Ovarian mature cystic teratoma with malignant transformation |
【現病歴】 0G未婚.既往歴なし.下腹部腫瘤感のため受診.その他自覚症状なし.
【検査所見】 WBC 7650 /μl, Hb 8.6 g/dl, PLT 33.0 ×10*4 /μl, LDH 445 IU/l, IL-2 787 U/ml, CRP 2.03 mg/dl,
CEA 18.0 ng/ml, CA125 193 ng/ml, CA19-9 23.0 ng/ml, SCC 16.1 ng/dl, 感染症なし
子宮内膜,頚管 細胞診異常なし
臨床経過 |
・受診時、全身リンパ節腫大と卵巣腫瘍、子宮腫瘍が見られ、悪性リンパ腫も鑑別挙がった
→頸部リンパ節生検で扁平上皮癌の診断
→子宮内膜、頸部からは悪性所見なし
・卵巣扁平上皮癌として化学療法施行
→原発巣,リンパ節転移ともに縮小傾向あり,腫瘍マーカーも低下
→手術へ(子宮全摘,両側付属器切除,大網切除)
画像所見のまとめ |
CT
・骨盤内に多房性嚢胞性腫瘤あり。厚く不整な造影効果のある隔壁あり。
・腫瘤内に脂肪成分を疑う
・子宮腫大し、内部に境界不明瞭な低吸収腫瘤あり
・頸部から骨盤までにわたる多発リンパ節腫大
MRI
・CT同様、骨盤内に多房性嚢胞性腫瘤あり。厚く不整な造影効果のある隔壁あり。
・脂肪成分は検出できなかった
・子宮体部筋層内に腫瘍→浸潤を疑われる
病理組織
・左卵巣・・・多房性嚢胞性状、変性・壊死様。一部扁平上皮組織の残存あり。teratoma成分は確認できず。
・右卵巣・・・異型細胞を伴う壊死様
・子宮・・・筋層内に腫瘍の残存あり。周囲広範囲に組織球や線維化あり→広範囲な浸潤があったと予想される
・ただし、他原発巣と考えられる病変なく、画像所見と併せて診断となる
最終診断:成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化
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治療前の脂肪成分の存在を見逃さない
卵巣腫瘍,内部性状はMRI主体でMRIのみで治療に入る事が多い
微小な脂肪成分の検出はCTも有用
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治療前CTのススメ
卵巣原発扁平上皮癌の鑑別診断 |
1.成熟嚢胞性奇形腫:0.8〜2.2%悪性転化(その80%近くがSCC)
2.ブレンナー腫瘍
3.子宮内膜症:大部分が類内膜腺癌・明細胞腺癌
(4.純粋型SCC 規約2016/WHO2014:削除)
成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化 |
・成熟嚢胞性奇形腫は卵巣腫瘍の10〜20%を占める。そのうち発生する悪性転化は0.17〜2%ときわめて少ない。
その予後は特に進行例で不良であり、難治性かつ稀な疾患であることから高いエビデンスに基づいた治療法は未だに確立していない
佐々木 怜子,関東連合産科婦人科学会誌 2015, 52(4):527-532・好発年齢の40-60歳、 腫瘍径10 cm 以上で発見されることが多く、腫瘍マーカーは SCC と CA125 が有用であるとされている。
子宮全摘出術+両側付属器切除術+後腹膜リンパ節郭清を含む完全摘出を行い、アルキル化剤を含む化学療法を施行した進行症例の予後は良好と報告している
Hackethal A, Lancet Oncology 2008;9:1173─80・卵巣原発扁平上皮癌は非常に稀、多くは奇形腫からの悪性転化(〜2%)、次いで子宮頸癌からの転移(2.5%)。
他の成分が検出されない純粋型は30例しかない
JUNG-WOO PARK, ONCOLOGY LETTERS 2015; 9: 321-323
参考文献