第 385 回 東京レントゲンカンファレンス[2018年6月28日]
播種性ヒストプラズマ症 disseminated histoplasmosis(輸入真菌症) |
画像所見のまとめ |
・全身の軽度リンパ節腫大と軽度のFDG集積亢進
・骨髄へのびまん性FDG集積亢進
・肝脾腫と脾臓へのFDG集積亢進
・脳実質のFDG集積低下
・肺炎
症例のまとめ
・南アメリカ北部在住、HIV陽性の50代女性
・恐らく長期無治療のHIV感染が背景
・亜急性経過の発熱・筋痛・全身倦怠感
・皮疹や軽度意識障害
・貧血、CK高値、肝酵素上昇、電解質異常
・フェリチン・sIL-2R異常高値、LDH上昇
・リンパ節、骨髄、脾臓へのFDG集積亢進と 肝脾腫、脳実質のFDG集積低下
鑑別診断 |
リンパ増殖性疾患
・HIV関連リンパ腫
・多中心性Castleman病
感染症
・抗酸菌症(結核、NTM)
・真菌症(輸入真菌症)
・Lyme病
・梅毒
自己免疫性疾患
・成人Still病
肉芽腫性疾患
・サルコイドーシス
Kaposi肉腫
その他
海外渡航歴で重要な疾患
・輸入真菌症
・Lyme 病
野ネズミなどを保菌者とし、マダニに媒介されるスピロヘータ
マダニ咬着→遊走性紅斑→インフルエンザ様症状
→全身に播種皮膚、神経、眼症状、関節、筋肉などに多彩な症状を呈する
ヒストプラズマ症 Histoplasmosis |
・二相性真菌である H.capsulatum による感染症
・鳥やコウモリの糞で汚染された土壌や塵埃中の胞子吸入で感染する。
・健常者では不顕性感染となり、無症状の事も多い(>99%)。
・HIV患者はCD4<150/mm3が高リスクで病原体の再活性化が起こる。
・血中/尿中抗原が迅速診断として感度が優れている。
・気管支肺胞洗浄液中抗原、病理組織学的検査も有用。
Kauffman CA, Med Mycol. 2011;49(8):785-98.
Histoplasmosis の画像所見
・通常は初感染は経気道的に起こり、免疫正常者では無症状で経過し、肺や縦隔の結節病変が偶発的に発見されること多い。
・多区域に多発性に見られるが、下葉背側の胸膜直下、内部に石灰化を伴った肉芽腫病変を呈するのが典型的とされる。
・気管支結石や線維性縦隔炎、増大する円形無気肺を呈する。
・肺外では腹部LNsや脾臓に石灰化を呈する事が多い。
Gurney JW, Conces DJ. Radiology. 1996 May;199(2):297-306.
Topin J, Mutlu GM. N Engl J Med. 2006 Jan 12;354(2):179.
Disseminated Histoplasmosis |
・多臓器で絶え間なく菌体が増殖するものと定義され、推定発生率は1/2000ヒストプラズマ症と非常に希。
・リスク因子:免疫抑制状態(AIDSや血液疾患、臓器移植後)
・症状:発熱、倦怠感が最多>体重減少、咳嗽、下痢
・身体所見:肝脾腫(ほぼ全例)、LN腫大(30%)、肺雑音、口腔咽頭潰瘍(<20%)
・検査所見:血球減少、肝胆道系酵素上昇(高頻度)
LDH *1、フェリチン*2、sIL-2R*3著増の報告がある。
・血球貪食症候群を合併しやすいとされる。
・治療:抗真菌薬(アムホテリシンB)
AIDS症例では早期の抗HIV療法(ART)開始も重要である。
・予後:未治癒の場合、死亡率100%
*1 Corcoran GR, et al. Clin Infect Dis. 1997 May;24(5):942-4.
*2Kirn DH, et al. Clin Infect Dis. 1995 Oct;21(4):1048-9.
*3Hirayama T, et al. J Infect Chemother. 2017 Sep;23(9):642-647.
本症例ではLDH、フェリチン、sIL-2Rの著増が見られ、診断の大きな手がかりとなり得た。
Disseminated Histoplasmosis の画像所見
・免疫抑制状態で病原体の再活性化により引き起こされ、全身の様々な臓器に浸潤しうる。
・初感染では肺にびまん性のコンソリデーションを呈し、細菌性肺炎と類似の所見を呈する。
・副腎や全身リンパ節に腫瘤を形成し、結核と類似した所見を呈する。消化管では回盲部を侵しやすい。
・肝脾腫の頻度が高く、脾梗塞の報告もある。
Radin DR, et al. AJR Am J Roentgenol. 1991 Nov;157(5):955-8.
Take Home Message |
・まれな輸入真菌症(播種性ヒストプラズマ症)1例を報告した。
・国際化社会における様々な患者背景に対応できる様に十分な知識と読影力を養うことを心がけたい。
参考文献