第 388 回 東京レントゲンカンファレンス[2018年11月22日]
眼球内シリコンオイルの脳室内への迷入 intracranial migration of silicone oil from the eye |
シリコンオイルとは |
・無色透明の液体。
・耐熱性、耐寒性、耐水性に富む。
・粘度安定性、化学的安定性が高く、他の材料への影響が少ない。
・電気絶縁油、潤滑油、艶出し剤(ワックス)、制動油、撥水剤、消泡剤、碍子塩害防止用塗布剤、平滑剤、化粧品など
様々な分野で利用されている。
・耐放射線性にも富んでいるため、放射線機器の高温度部分にも使われている。
眼内充填物としてのシリコンオイル
・重症の網膜剥離や増殖糖尿病網膜症などに対する硝子体手術後の眼内充填物質として広く使用されている。
長期間の良好な眼内タンポナーデ効果を得られる。
・術後3ヶ月を目安に抜去するのが理想とされる。
ただし、抗凝固薬使用中で再出血のリスクがある患者や眼球瘻のリスクから抜去不能例となり、長期留置となることもある。
脳室内へのシリコンオイルの迷入報告 |
・2000年のEller らによる報告が最初
40歳代男性 網膜のサイトメガロウイルス感染後におきた裂孔原性網膜剥離に対して
硝子体手術+シリコンオイルタンポナーデ施行→15ヶ月後のMRIで体位により変動するシリコンオイルの脳室内迷入が観察された
・2000年 Eller らによる報告
Eller AW et al. Am L Ophthalmol 133:429-430,2000 ・2005年 Fangtian らの報告
60歳代女性 増殖糖尿病網膜症に対する 硝子体手術+シリコンオイルタンポナーデ施行
→8ヶ月後のMRIで脳室内へのシリコンオイル迷入を報告
眼圧が高く、視神経萎縮の患者では、脳室に迷入するリスクがあると警告
Fangtian D et al. Am L Ophthalmol 140:156-158,2005
迷入機序
通常、硝子体腔とクモ膜下腔・脳室との間に交通はないため、なんらかの経路が想定される。
Dr.Larry kramer et al.McGovern Medical school 臨床のための解剖学《仮説1》
シリコンオイルの長期留置に伴う眼圧の上昇により、視神経の海綿状変性を引き起こし、最終的に硝子体腔とクモ膜下腔に交通が生じる
Shields CL,et al. Arch Ophthalmol 107:714-717,1989《仮説2》
視神経乳頭小窩を有する患者では、より簡単に迷入する
Kuhn F,et al. Graefes Arch Clin Exp Opthalmol 244:1360-1362,2006
頭蓋内へのシリコンオイル迷入
・基本的に無症状。頭蓋内圧亢進症状として頭痛を来し、シャント術により症状が改善した例が1例報告あり。
Hruby PM et al. Retin Cases Brief Rep; 7:288-290. 2013
Take home message |
眼球術後で、脳室内を移動する病変が眼球充填物と同等の濃度・信号であった場合は、眼球内シリコンオイルの脳室内への迷入を考える
参考文献