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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第399回症例 症例:呈示
第 399 回 東京レントゲンカンファレンス[2023年2月16日]
症例5 70歳代 女性
多発血管炎性肉芽腫症(MPO-ANCA 関連肥厚性硬膜炎、下垂体炎)
GPA(ANCA-Associated hyper trophic pachymeningits and hypophysitis)

 

 経過

追加採血でMPO-ANCA陽性、PR3-ANCA陰性。 lgG4正常範囲、IL-2正常範囲内。内視鏡下副鼻腔手術施行。

副鼻腔検体で肉芽腫や炎症性変化認めたが、疾患非特異的。斜台部の生検はリスクが高く施行せず。
感染症が原因である可能性は低いことを出来るだけ確認した。

多発血管炎性肉芽腫症の診断基準は現時点では満たしていないが、臨床的にGPA (MPO-ANCA関連肥厚性硬膜炎、下垂体炎、海綿静脈洞炎)と判断。
ステロイドパルスリツキシマブ施行、外転神経麻痺及び画像所見改善

 

 画像所見

下垂体炎:下垂体や下垂体茎腫大し増強効果あり
下垂体後葉の信号は消失してない

肥厚性硬膜炎(限局型)両側中頭蓋窩、両側海綿静脈洞部、斜台背側の硬膜肥厚、斜台の骨破壊
海綿静脈洞部内頸動脈に明らかな狭窄なし
脳神経肥厚や増強効果なし、斜台背側で両Y神経は同定できず
軟髄膜の増強効果なし、皮質下白質小高信号以外脳実質病変なし       

副鼻腔炎:蝶形骨洞や篩骨洞に非特異的な粘膜肥厚や炎症所見あり、蝶形骨洞背側で骨皮質断裂

その他:中耳炎や乳突蜂巣炎、眼病変なし

 

 鑑別疾患

・続発性肥厚性硬膜炎+下垂体炎
ANCA関連血管炎
IgG4関連疾患
サルコイド―シス

・悪性リンパ腫
・感染症:頭蓋底骨髄炎、急性浸潤性真菌性鼻副鼻腔炎


 多発性血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with polyangiitis;GPA)

・発熱など全身症状や、上気道の壊死性肉芽腫および壊死性半月体形成性炎をきたすことを特徴とするANCA関連血管炎
・PR3-ANCA (45%)とMPO-ANCA (55%)の陽性率半々。
限局型ではANCA陽性率低下
・好発年齢は 40〜60歳台、小児や高齢者でも発症しうる
・性差はほぼなし(近年の臨床研究では女性にやや多い
・ear,nose,throat(ENT)病変が最多、8割以上同部位で初発
・採血では、炎症反応が上昇(好中球/血小板/CRP /赤沈↑)
・上気道+肺+腎病変⇒全身型、気道and/or肺病変のみ⇒限局
大脳の血管炎(斑状の白質病変、虚血、出血等)の頻度は4%
・寛解導入時:PSL+CPA(治療効果不良時RIT)

皮膚、腎臓、肺、鼻/副鼻腔の活動性病変の生検が多い 
【鼻腔/ 副鼻腔生検】
侵襲性低めだが、 検体量が少ないと偽陰性率上昇するので、生検結果が陰性でもGPA は否定できず 
⇒頭頸部の生検 (鼻/副鼻腔は87/126検体) : 血管炎26%、 壊死 33%、 肉芽腫42%、全てありは16%のみ 

【下垂体/硬膜生検】
高リスク、 他臓器から生検可、 確診率が高く ないので基本的に必要ない 
⇒ANCA関連肥厚性硬膜炎の3/7の硬膜検体で肉芽腫形成や血管 炎といった特徴的な病理所見を得られなかった 
⇒ また、3.8%で血清IgG4↑や組織中IgG4 + 形質細胞浸潤あり
⇒一方、RA患者のGPAと頭蓋底骨髄炎合併例の報告もあり

GPAの治療効果が悪い時に、感染や腫瘍(悪性リンパ腫)を除 外する為に施行。 複数の硬膜生検で感染が診断されることあり 

 

 ANCA関連肥厚性硬膜炎:
 Hypertrophic pachymeningitis in ANCA-associated vasculitis(HP in AAV)

肥厚性硬膜炎の約34%を占め、GPAの肥厚性硬膜炎の頻度は0.6–8.0%
日本ではGPAと新規診断時、10%(10/99)と他のANCA関連血管炎よりも高め
性差はっきりせず(17人のMPO-ANCA陽性例で1 : 3.25と女性優位)
発症年齢は特発性に比べやや高め(62.5±14.4〜71.1 ± 8.0歳)
発熱、頭痛、脳神経麻痺、小脳失調、対麻痺などの神経症状
髄液で細胞数増多(45%,9/20)、蛋白増加(55%,11/20)、圧の上昇 ⇒(硬膜炎が)軟髄膜に炎症が及んだ程度による
日本のANCA関連肥厚性硬膜炎(GPA15人+MPA15人):
MPO-ANCA陽性77%、PR3-ANCA陽性20%(一般的にMPAは9割がMPO-ANCA陽性、腎障害が好発) 

ANCA関連肥厚性硬膜炎は、腎病変の頻度が低い(40%、12/30 VS 67%、427/633)ので限局型が多い。初回診断例も腎病変50%(肥厚性硬膜炎がない症例では70%)、再発例も20%(肥厚性硬膜炎がない症例は48%)

新規診断されたMPO-ANCA関連肥厚性硬膜炎の3.2%(14/435)に肥厚性硬膜炎あり、再発時は14.75%(9/61)に増加
 ⇒MPO-ANCA陽性の場合は、全ての病期で肥厚性硬膜炎を留意

 

【ANCA関連肥厚性硬膜炎の発生機序

1)上気道の肉芽腫病変の波及(報告が多い) 
画像上、近接する肉芽腫(鼻/中耳炎/乳突蜂巣炎)が直接硬膜に進展したとする症例報告散見される
肥厚性硬膜炎は病理の報告でも壊死性肉芽腫の頻度が高い (26人): 壊死性肉芽腫61.5% > 小血管炎7.7%、 両者15.4% 
上気道病変が連続しない症例もあり、その場合、静脈(から静脈、硬膜へ)を介した肉芽腫の遠隔病変や上気道における粘膜免疫機構異常が自己免疫病態を誘導したという考え方もある

2)ANCA関連肥厚性硬膜炎が初発で単独の活動性病変:頻度低い 
HPの70.3% (26/37) が限局型。13例は髄膜炎に他病変先行せず、 特に3例(11.5%) は髄膜炎の所見のみだったという報告あり。 

硬膜炎が多く (82.1%)、軟髄膜(27.1%)、硬膜+軟膜 (10.8%) 。
硬膜肥厚はびまん性と限局型 (近接する眼や副鼻 腔病変からの進展をより考える) あり、腫瘤状の肥厚は比較的非典型的 。
頭蓋内(90.7%)が多く、脊髄 (5.6%)、頭蓋内 + 脊髄(3.7%) 。

日本のMPO-ANCA 関連肥厚性硬膜炎(17人)の報告では、 頭蓋窩、円蓋部、小脳テント/大脳鎌、海綿静脈洞の順に多かった。全ての(ANCA関連肥厚性硬膜炎以外の原因も含む)肥厚性硬膜炎の報告では、斜台背側肥厚は5%と稀。 

 

【HPの脳神経障害】

33% -50 %にあり、単発・多発 /片側・両側いずれもあり。 
原因としては、肥厚した硬膜が神経を直接的圧迫/循環障害、神経への炎症波及が考えられている。 
MRIで脳神経腫大や増強効果を認めることも。 
脳神経の頻度は様々報告あるが、MPO-ANCA関連肥厚性硬膜炎(17例)の過去の報告では、 VIII最多、II 、 VII、V、 III・W・Y/IX・]の順に多かった。
また、特発性肥厚性硬膜炎(20%)に比べ、 ANCA関連肥厚性硬膜炎で 複視(III/IV/VI)が少なめ (3.7%)だった。
 ⇒発生機序、硬膜肥厚部位が影響か? (海綿静脈洞部硬膜炎の頻度低め) 


画像所見
:造影MRIで約9割に異常あり 
・硬膜肥厚し、T1WI 低~等、T2WI 高~進行して低信号(線維化)、 著明な増強効果。 
・疾患非特異的だが、 再発時に“Eiffel by night” sign を認めることがある。Corで大脳鎌後半部や小脳テントの硬膜肥厚が中心部は線維化で低信号にみられ、辺縁は活動性炎症で増強効果を認める。 
・ステロイド使用等の影響で、再発時はANCAや炎症反応が上昇しない例あり、再発診断に画像所見が重要 。
• 肥厚性硬膜炎や下垂体病変はPET-CT検査で感度高くないので、造影剤不可例はGaシンチを検討し てみても良いかも。
 ⇒肥厚性硬膜炎で、Gaシンチの感度 44.0%(22/50)> SPECT 34.5% (10/29)、PET-CT11.8%(2/17) 


【診断と治療】

初診時に肥厚性硬膜炎を認めたANCA関連血管炎患者のうち、ANCA陽性例の15%が診断基準で確実例にならない 。また、ANCA陰性例でも、GPAに特徴的なENT病変や病理所見認めることあり。 これらの場合、暫定的にANCA関連肥厚性硬膜炎と判断し、治療開始することが多い 。
しかし、感染含めANCAが擬陽性になる疾患は多く、また稀だが真菌性骨髄炎と合併した症例もあり 。したがって、易感染状態か、また感染症の可能性を出来るだけ調べた上でステロイド開始することが望ましい。


【下垂体炎: GPAの1%に認める稀な病変】

PR-3 ANCA 陽性例での報告が過去多いが、日本中国からはMPO-ANCA陽性例が報告されている。
少数報告で男女差なしとされていたが、最近は(特に若年で) 女性優位 (69.7%) と報告。

発症年齢の平均50歳(24-77歳)。 下垂体機能低下症で初発した例はより若年に多い(39 ± 15 VS 60 ±5) 
症状: 頭痛、多飲多尿、嘔吐、視野欠損 
下垂体後葉炎(44.6%)や汎下垂体炎 (42%)の頻度が前葉炎 (13.5%) より多い。
尿崩症(75-85.7%) と性腺機能低下症 (48.6~87.5%) が特に多い。性腺機能低下症はGPA治療(ステロイド)の影響もあるといわれている。 

全身精査すると副鼻腔や中耳、肺など他の部位に活動性病変が (下垂体よりも先に) みられることが多い(ないのは7.6~26%)。
下垂体が再発病変として認めることも。 

頻度は低いが、下垂体機能異常が初発症状となり、下垂体腫大/ 腫瘤しか認めないことあり、他部位に病変出現/生検するまで GPAの診断が遅れる 。

【下垂体炎が生じる3つの説】

1)耳鼻咽頭や眼窩など隣接している領域の肉芽腫病変が直接的に進展(原因として多い)
2)下垂体に直接肉芽腫病変を形成△
3)頭蓋内 (下垂体を含め)の血管炎△ 

MRIで約9割に異常所見を認めるが所見は非特異的

下垂体腫大 (77.9%)orトルコ鞍部腫瘤
下垂体/腫瘤の均一/不均一な増強効果
後葉信号消失(42.6%)
下垂体柄の腫大/増強効果(17.6%)
漏斗への進展(11.8%)
嚢胞変性することも
下垂体が下垂体柄を圧排

予後:全身疾患としての寛解は7-8割で得られるが、62~86%で下垂体機能改善せず。
画像所見での改善も、下垂体機能と必ずしも相関しない(壊死性肉芽腫性炎症が既に生じた後だからか)

 

 考察

考察1:両外転神経麻痺の原因は、海綿静脈洞部および斜台部の肥厚性硬膜炎と考える

外転神経の走行 
橋延髄境界部からクモ膜下腔に 
↓  
橋前槽を斜台後面に沿い上行 
↓ 
硬膜を貫きDorello管に入る 
↓ 
海綿静脈洞を走行 
↓ 
上眼窩裂 

海綿静脈洞部硬膜炎
動眼/滑車/外転神経麻痺で複視出現⇒Y発症が多い 
海綿静脈洞内を唯一 VIは走行 (それに対して、海綿静脈洞外側壁の硬膜はV・W・V を挟んで2層構造。)
内頚動脈の線維化で狭窄/閉塞→虚血/梗塞 
海綿静脈洞症候群生じることも

斜台部硬膜炎 
外転N麻痺発症多い。
進行し、対側外転や舌咽/舌下(嚥下構音障害)、更に三叉N障害が出現。斜台部硬膜炎が海綿静脈洞炎に進展した症例もあり 。

 

考察2:本例ではどのように病変が進展したのか??

・副鼻腔炎の所見は非特異的で、MRI上斜台部を中心とする肉芽腫病変が蝶形骨洞の背側部の骨皮質に断裂を来し、蝶形骨洞に進展してみえた。過去の報告では、頻度は低いが、硬膜(頭蓋底)/下垂体が原発となった可能性が考えられる。
・下垂体と海綿静脈洞は一つの腔の中にあり互いに進展しやすい。過去の病理や画像の報告では肥厚性硬膜炎の下垂体進展例(GPAの肥厚性硬膜炎、下垂体炎の症例で病理学的に硬膜に接する下垂体のみ炎症あり) 、下垂体炎の硬膜進展例(画像上リンパ球性下垂体炎が周囲前後の硬膜を肥厚させ、ドレロ管でVI麻痺、 視束管で球後視神経炎生じた) のいずれもあるため、本症例はどちらもありえる。
・また、下垂体に病変ができてから3か月以内に病変が発見され、早期治療された珍しい症例なので、下垂体機能が保たれ、症状も呈さなかったと考えました。 

 


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Moderator: 田川 寛子