NF1を背景とした多発十二指腸GIST (Duodenum GISTs in a patient with NF1) |
画像所見 |
造影CT(動脈相) |
十二指腸に造影効果を伴う腫瘤が多発している。(ピンク) |
皮膚結節を認める。(黄色) |
MRI | |
T1WI低信号で、悪性黒色腫の転移の可能性は下がる。 | |
上段: T1WI/ T2WI 下段:FsT2WI/DWI |
造影MRI | |
T1WI低信号で、悪性黒色腫の転移の可能性は下がる。 | |
上段:Pre/1st 下段:2nd/Delay |
造影CT(動脈相)(参考画像) |
側方髄膜瘤を認める。 |
以上より、NF1の背景が疑われた。
(依頼内容に記載なかったが、既に前医でNF1の診断が付いていた。)
NF1 (Neurofibromatosis type 1) |
・カフェオレ斑、神経線維腫を主徴とし、皮膚,神経系,眼,骨,などに多種病変が出現し、多彩な症候を呈する全身性母斑症。
・1882年にドイツのFriedrich Dnaiel von Recklinghausenにより初めて学会報告された。von Recklinghausen病とも呼ばれる。
・本邦での患者数は約40,000人。出生約3000人に1人生じる。
・常染色体優性の遺伝性疾患である。しかし、患者の半数以上は孤発例であり、突然変異で生じる。
・原因遺伝子は17q11.2に位置し、neurofibromin蛋白(癌遺伝子であるrasの機能を負に制御)が異常をきたす。
・現在までにNF1の3000種類以上の遺伝子変異が報告されている。
・一塩基変異(SNV)と小さな欠失(20bp以下)は現在知られている変異の70%以上を占める。
・臨床表現型と分子遺伝型との関連が注目されている。
NF1 診断基準
<遺伝学的診断基準>
・NF1遺伝子の病因となる変異が同定される。
<臨床的診断基準>(2項目以上でNF1と診断。)
・6個以上のカフェオレ斑
・2個以上の神経線維腫またはびまん性神経線維腫
・腋窩あるいは鼡径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
・視神経膠腫
・2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)
・特徴的な骨病変(脊柱,胸郭,四肢骨の変形、頭蓋骨,顔面骨欠損)
・家系内(第一度近親者)に同症
NF1 関連する腫瘍 |
・視神経膠腫(Optic Glioma)、MPNSTなどは代表的。
・Non-optic glioma
・乳癌
・血液腫瘍(若年性骨髄単球性白血病など)
・横紋筋肉腫
・褐色細胞腫
・傍神経節腫
・GIST
・NET
・グロムス腫瘍
etc
GISTについて |
・GISTは消化管壁から発生する間葉系腫瘍の約80%を占める。
・消化管壁内or壁外へ外方増殖する。腸間膜、卵巣、後腹膜に発生することもある。
・小さいものは均一な充実性腫瘍で造影にて濃染する。大きくなると壊死、出血、嚢胞変性を伴って内部構造が不均一になる。
・血行性転移(特に肝転移)や播種を起こすが、リンパ節転移は稀である。
・悪性度の高いGISTを示唆する所見として、5cm以上の腫瘍径、周囲臓器浸潤、血行性転移・腹膜播種、潰瘍形成、辺縁不整、急速増大、腫瘍内部の壊死・出血、多血性などがある。
NF1を背景とした十二指腸GIST |
・GISTの頻度は10万人に1-2人と稀であるが、NF1患者全体の約4-25%にGISTが合併するとされる。
・一般集団では胃に多く発生するが、NF1患者では近位小腸に最も多く発生し、多発性のものが多い。
・十二指腸GISTのうち6%はNF1患者に起きるとされる。一般集団と比較して約180倍の発生確率とされる。
・NF1に合併するGISTはc-kit変異がないことが多く、イマチニブなどの分子標的薬が効きづらい一方で、低リスク症例が多く予後は良好とされる。そのため、多発する場合は経過観察することもある。
本症例の経過 |
・EUS-FNA施行し、病理学的にGISTの確定診断となった。
・後方視的にみると、他院CTで確認し得る9年前から認め、著変ないことが確認された。
・十二指腸GISTへの治療介入はせずに経過観察している。
本症例の既往を振り返って |
・非小細胞性肺癌や悪性黒色腫においてNF1遺伝子変異やRAS遺伝子変異を認めることがあることは知られている。
・ NF1患者において、肺癌や悪性黒色腫の発症率増加を示す疫学的研究が存在する。
・本症例の既往であった肺癌や悪性黒色腫も、NF1と関連して発生した可能性があるといえる。
参考文献
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