●症例6 男児(乳児)

解答:Shaken baby Syndrome

Shaken baby syndrome
1) 疫学

激しく頭が揺すられることで、架橋静脈の破綻による硬膜下血腫/くも膜下血腫や、び漫性脳損傷が起きる。ほとんどの報告が1才以下で、首の座らない4ケ月以下の症例が多い。欧米での報告の多くは乳幼児虐待によるものであるが、日本では虐待によらない症例の報告も散見される。
実験的データからは、頭蓋内に傷害が起きるためには揺するだけでは不十分で、何かにぶつかって速度の急激なdecelerationが必要とも言われており、Shaking-impact syndromeあるいはShaken impact syndromeという言葉も提唱されているが一般的ではないようである。

2)臨床像
発症は様々な神経症状。半数は重篤な意識障害。
虐待の場合は保護者から正確な情報を得にくい。
痙攣:40ー70%
眼底出血:65ー95%
頚髄損傷もまれではない
生存例の80%に長期の神経症状の残存や精神発育遅延

3)画像診断
1. CT/MRIによる頭蓋内出血の診断:硬膜下あるいはくも膜下出血が典型的で、後頭部に多い。CTで判断困難な微少脳実質外出血はMRIによる診断が有用。MRIでは脳実質の損傷の評価や皮下の軽微な外傷の発見も可能。実際の臨床の場では、まずCTでの正確な出血の評価が重要。
2. 単純Xpによる骨折の診断:頭蓋骨骨折を伴うことも多く、後頭部に多い。虐待児の30ー70%に肋骨や長幹骨の骨折痕が報告されており、虐待が疑われる場合は全身の骨の検索も必要。

4)画像上の鑑別診断(乳幼児に頭蓋内出血を来す疾患等)
事故による頭部外傷
血液凝固能異常(血友病、ビタミンK欠乏症等)
代謝異常(グルタル尿酸症等)
骨形成不全症

意識障害や痙攣等様々な神経症状で来院するため、臨床の場ではまず、髄膜炎、電解質異常、脳性麻痺、精神発育遅延等も念頭に置いて検査を進めることになる。

5)付録
・本症例は虐待ではなく父親が「高い、高い」を何度も繰り返しているうちに、最初は大喜びをしていた患児がいつの間にかぐったりしていたという、純粋な(?) shaken baby syndromeであった。
・乳幼児虐待は数年前より日本でも社会問題化してきており、診断に関わる放射線科医の社会的責任も大きい。意識障害のある、一見外傷の無い乳幼児を見た時には、常にshaken baby syndromeも念頭に置いて画像検査を行うべきである。

6)参考文献
1. Barlow KM, Minns RA. Annual incidence of shaken impact syndrome in children. Lancet 2000;356:1571-72
2. McCabe CF, Donahue SP. Prognostic indicators for vision and mortality in shaken baby syndrome. Arch Ophthalmol 2000;118:373-377
3. Duhaime AC, Christian CW, et al. Nonaccidental head injury in infants - The メshaken-baby syndromeモ. N Engl J Med 1998;338:1822-9
4. Gilles EE, Nelson MD. Cerebral complications of nonaccidental head injury in childhood. Pediatr Neurol 1998;19:119-128

 
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 moderator : 神山信也 徳丸阿耶



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