第303回 東京レントゲンカンファレンス
2008年03月27日開催

症例1 70歳代 男性


診断:CNS;Intravascular lymphomatosis(左尿管腫瘤;Diffuse large B cell lymphoma)


11/30  脳MRI

 

11/30  脳MRI

 

12/8 PET-CT

 

【入院後経過】

  • 左尿管腫瘤→尿管癌疑い
    汎血球減少下にあり、診断のための膀胱鏡、尿管カテーテルはリスクが高いため行わなかった。
  • 脳実質所見→尿管癌脳転移 
    FDG-PETの所見から尿管癌の脳転移が最も考えられた。鑑別診断としてはintravascular lymphomatosisが挙げられた。
    汎血球減少の状態にあり治療困難、DNRの方針となる。12月18日死亡確認。
 

剖検所見:左尿管腫瘤 Diffuse large B cell lymphoma

Intravascular lymphomatosis(IVL)

  • Intravascular lymphoma、angiotropic lymphomaなどとも呼ばれる。
  • リンパ腫が血管内に増殖する、non-Hodgkin lymphomaのまれな亜型。
    ※CNS発症のnon-Hodgkin lymphoma104例のうち、わずかに2例を占めるとした報告あり。わずかに男性に多い。発症平均年齢は63歳(41-79歳)。
  • ほとんどはB-cell type(時にT-cell typeもあり)。
  • 毛細血管や小動静脈の内腔に腫瘍細胞が増殖。「臓器実質への浸潤はまったく、あるいはほとんどない。」
  • 主に皮膚、中枢神経系に発症するが、末期では他臓器や末梢神経系に浸潤した報告がある。また、子宮頸部、前立腺などの他の臓器で初発することもある。
  • 肝脾腫、リンパ節腫脹、末梢血へのリンパ腫細胞出現はuncommon。
  • Intravascular lymphomatosisの中枢神経系症状はさまざま。
     ・最も多いのが、進行性亜急性の認知症で、3/4の症例に見られる。
     ・他、麻痺や膀胱直腸機能障害など
     ・基本的に進行性だが、一時的に症状が寛解する例もある。

IVLの画像所見
ほとんどの症例で、多発性の所見が認められる。

  • T2強調像にて、
     ・白質に非特異的斑状、びまん性高信号。
      →浮腫やグリオーシス、あるいは微小な虚血、梗塞を反映したものと
        考えられている。
     ・梗塞様の高信号。
     ・腫瘤様の高信号。
  • Gd造影後T1強調像にて、
     ・硬膜やくも膜に沿った増強効果。
      →髄膜内血管への浸潤を反映した所見と考えられている。
     ・腫瘤様の増強効果。
     
  • 拡散強調像にて、梗塞を反映した高信号が認められる。形状は様々。

本症例では
・進行する多発神経症状。
・T2強調像にて亜急性に進展する高信号域。
・DWIにて、梗塞を反映した高信号。
などが、IVLの中枢神経系病変に一致する所見。

・10/30の造影CTにて、左尿管周囲に、尿管閉塞を伴わない腫瘤が認められており、ここから
 lymphomaの可能性→
 頭蓋内所見:Intravascular lymphomatosis とのsuggestionが可能であったかもしれない。

CNS IVLと左尿管DLBCLの関係
・典型的なIVLは、
  「臓器実質への浸潤はまったく、あるいはほとんどない。」といわれる。
・IVLが他の悪性リンパ腫(solid NHL)と同時に,あるいは先行、または後発して、発症した報告があり、 1つの病態として捉えることが出来るのかもしれない。
・本症例において、免疫染色の結果はすべて一致しており、1つの病態として考えても矛盾しない。
・ただし、推測の域を出ない。

IVLの鑑別疾患
・脳血管性認知症
 → IVLと比較し、進行が緩徐であり、より高齢者に多い。
・血管炎
 → IVLよりも若年(30〜50歳代)に多い。
・gliomatosis cerebri
 → 病変に占拠性効果を伴う。腫瘤様病変や髄膜の増強効果はIVLよりまれ。
・神経サルコイドーシス

 

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Moderator:町田 洋一