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東京レントゲンカンファレンス TOP症例一覧 第337回症例症例:呈示
第 337 回 東京レントゲンカンファレンス[2012年6月28日]
症例4 50歳代 女性 
シェーグレン症候群に合併したびまん性リンパ過形成と胸腺MALTリンパ腫
diffuse lymphoid hyperplasia and MALT lymphoma of the thymus associated with Sjögren syndrome

 


 所見のまとめ

1.前縦隔腫瘤
・辺縁平滑、均一に造影される腫瘤性病変
・内部に胸腺静脈がスムーズに走行
・石灰化や脂肪は認められない
・胸水を伴う
2.肺病変
・両肺に斑状のすりガラス状濃度上昇

 

 前縦隔腫瘤の鑑別

胸腺腫瘍
・胸腺上皮性腫瘍 悪性リンパ腫 カルチノイド 胚細胞性腫瘍
・奇形腫 胎児性癌 絨毛癌 精上皮腫 甲状腺/副甲状腺腫瘍
・胸腔内甲状腺、甲状腺腫/腺癌、異所性副甲状腺腫
縦隔型肺癌 リンパ節病変 神経原性腫瘍 間葉系腫瘍

 

 びまん性スリガラス影の鑑別診断

感染性/炎症性
 Pneumocystis jirovecii ウイルス性/異型肺炎
 ARDS;acute respiratory distress syndrome
 間質性肺疾患(特発性、薬剤性、膠原病、リンパ増殖性)
 過敏性肺炎
腫瘍性 悪性腫瘍;adenocarcinoma in situ(AIS)
その他 肺水腫 肺胞出血

 

 鑑別診断:まとめ

  ◎前縦隔腫瘤   ◎肺のスリガラス影   
  胸腺腫瘍    感染性/炎症性   
   ・胸腺上皮性腫瘍    ・感染性肺炎  
ya  ・悪性リンパ腫 ya  ・間質性肺疾患 ya
 ・カルチノイド 腫瘍性:AIS
胚細胞性腫瘍 その他:肺水腫
   
背景疾患が存在? ya リンパ増殖性疾患?

 

患者は数年来の口渇感、目の乾きを感じていた。

 

PET-CT

PET-CT   Sjögren症候群疑い

抗SS-A/Ro抗体 64倍

抗SS-B/La抗体  陰性
可溶性IL-2受容体 1170 IU/ml
 
病理所見

前縦隔腫瘤

前縦隔腫瘤  
MALToma;mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma

肺組織

肺組織  
DLH;diffuse lymphoid hyperplasia (LIP; Lymphocytic interstitial pneumonitis)
     
     

 

診断:Sjögren症候群に合併した胸腺MALTリンパ腫、DLH


 Sjögren症候群

・おもに涙腺および唾液腺の外分泌腺の炎症をきたす自己免疫性疾患
・乾性角膜結膜炎と口内乾燥症を主症状とする。
・40〜50歳代の発症が多い
・患者の約90%は女性。
・73.4%の患者で抗SS-A/Ro抗体、18.7%の患者で抗SS-B/La抗体が陽性となる。

 

 気道・肺病変

気道病変
 ・気管支壁肥厚、気管支拡張
 ・濾胞性細気管支炎
リンパ増殖性疾患
 ・リンパ球性間質性肺炎(LIP)
 ・diffuse lymphoid hyperplasia(DLH)
 ・肺原発悪性リンパ腫の合併
間質性肺炎
 ・非特異性間質性肺炎(NSIP) が最多

 

・小葉中心性分岐状影
・気管支血管束の肥厚
・小葉間隔壁の肥厚
嚢胞
・すりガラス影
・胸膜下結節

 

悪性リンパ腫の合併
・悪性リンパ腫の合併率は欧米では約5%であり、その相対危険度は40 倍に上るとされている。
・Sjögren症候群に合併する悪性リンパ腫は唾液腺に出現することが多い
MALTリンパ腫が多い(59%)とされるが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(15%)などの通常のタイプのリンパ腫も認められる。

 

 胸腺MALTリンパ腫

51例のmeta-analysisでは

・日本、韓国、中国など東アジアが多い(約80%)
・M:F≒1:3
74.5%に自己免疫疾患を合併
 Sjögren症候群(55%)
>RA(11%)>SLE(8%)

Cysticな部分を含むことが多い。
組織学的には扁平上皮に覆われた”colloid-like”fluidを反映している。

 結語

・Sjögren症候群に合併した胸腺MALTリンパ腫、 DLHの1例を経験した。
・悪性リンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患には、背景疾患としてSjögren症候群などの自己免疫疾患が存在する可能性を考慮する必要がある。

 

参考文献
・Radiology Review Manual 7th edition
・村田 喜代史、他:胸部のCT.第3版 474-477
・Julia Capobianco et al. :RadioGraphics 2012; 32:33–50
・FoxRI;Lancet 2005;366:321-331
・Tonami H:J Comput Assist Tomogr 2003:27:517-524
・Voulagarelis M;Medicine(Baltimore).2012:Jan;91(1):1-9.
・Heounjeon Go et.al:Leukemia&Lymphoma,2011;52(12):2276-2283
・Annikka et.al:Lung,2011;189:461-466


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