遺伝性血管性浮腫 hereditary angioedema |
画像所見 |
・小腸を中心とした広範な粘膜下浮腫と腹水貯留
・腸管に明らかな閉塞起点は認めない
・腸管虚血の所見はなく、その他の腹部臓器に明らかな異常所見は認めない
・3年前もほぼ同様の所見である
鑑別診断 |
・膠原病(ループス腸炎) ・血管炎(HS紫斑病) ・好酸球性腸炎 |
・アニサキス腸炎
・感染性腸炎 ・遺伝性/後天性血管性浮腫 |
反復する症状で自然軽快しうる疾患 |
診断 |
主治医に精査をすすめ、追加血液検査を施行
C3 61mg/dl↓,C4 4mg/dl↓,C1インアクチベータ―活性25%以下
遺伝性/後天性血管性浮腫(Hereditary/Acquired angioedema:HAE)
遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema;HAE) |
・1882年にQuinckeが血管性浮腫を報告しQuincke浮腫として知られる
・1888年にOslerが遺伝性を報告
・近年、HAEの主たる原因がC1インヒビターの欠損もしくは機能異常により起こることが明らかとなった
【疫学】
・推定頻度は50000人に1人といわれる
・診断されていないケースが多いと思われ、日本人における正確な頻度は不明
・常染色体優性遺伝
・ただし、家族歴のない孤発例はHAE全体の25%
【分類】
・1型(HAE全体の85%)常染色体優性遺伝
C1インヒビタータンパク量低値、C1インヒビター活性低値
・2型(HAE全体の15%)常染色体優性遺伝
C1インヒビタータンパク量正常または上昇、C1インヒビター活性低値
・3型(稀)エストロゲン依存性、女性に発症、病態の詳細は不明であるが、一部には凝固第XII因子の変異を認める。
C1インヒビタータンパク量正常、C1インヒビター活性正常
【症状】
・数時間で浮腫が完成し無治療でも3日程度で消失
・浮腫は限局性、左右非対称で掻痒感を伴わない
・喉頭浮腫を起こすと致命的で適切な治療をなされなければ30%が死亡
・HAE患者の半数以上が少なくとも1度は生涯で喉頭浮腫をきたす
・消化管浮腫により不必要な手術を受けることがある
【診断・治療】
・HAEの診断は補体関連の血液検査で行う(保険適応)
※詳細は「遺伝性血管性浮腫のガイドライン」を参考
・治療はC1インアクチベーター製剤であるベリナートP(¥99483)
・FFPで代用することもある
・現在では原発性免疫不全症として難病指定されている
症例の経過
・入院翌日には症状は改善、第7病日には退院
・病歴聴取で過去に繰り返す四肢の浮腫があったことも判明
・本例は家族歴がなく孤発例と判断
・確定診断のための遺伝子検査は本人は希望されず未施行
・当院は薬剤の備蓄がなく専門医療機関に紹介し通院中
結語 |
・突然発症し反復する浮腫(消化管含む)を認めた場合は遺伝性血管性浮腫を考慮する必要がある
・遺伝性血管性浮腫は喉頭浮腫により致死的転帰をたどることがあり、診断する価値は非常に高い
・本例のように腸炎様症状で発症し、また自然軽快するため診断が難しい場合もあり、疑った場合は積極的に検査をすすめる必要がある
参考文献
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